若杉弘指揮、東京都交響楽団のマーラー第9番。

若杉弘さんが亡くなられたのはもう5年も前のことで、それほど興味を持っていた指揮者ではなかったから、家にはDENONに吹き込んだ武満徹のアルバムぐらいしかないが、NHKで放映されたN響とのマーラーの演奏はDVD-Rにコピーして保存してある。

For No One: N響アワーにて若杉弘さんのマーラー。

おそらくは追悼企画でちょっと多めにプレスしすぎた在庫処分なのではないかと思われるが、若杉さんと都響のマーラーチクルスのCDが、昨年からだろうか、タワレコで特価で売られている。全集セットは見かけず、単売のディスクも少しずつ棚から減っていって、わずかに残っていた中から、9番と10番アダージョのセットを購入した。定価は5千円以上もするので、なかなか手を出しにくいことは間違いない。NHKで見た映像(オケは違うが)の好印象があっても、特価でなければ買っていなかっただろう。



9番を聴く。1991年サントリーホールでのライヴだ。録音はなかなかにクリアで、分離が良い。後ろで鳴っている音もよく捉えていて、楽器が頭に浮かぶ。とは言え、ホールの特性か、響きはまろやかでありつつ張りがあってよい感じ。ピーキーな、がちゃつくところはしっかりがちゃつく。
ただし、これは個人的な問題だろうが、こういう録音だと音を聴いてしまいがちになり、楽興に身を任せにくいきらいはある。
ところが、第二楽章に入るとがちゃつきが気にならなくなり、アンサンブルの結束が増した様に聴こえ始めた。ライヴであるから、温まってきた、ほぐれてきたと言う感じだろうか。特に弦の響きに、厚みが出てきて良くなった。
第三楽章も同様で、この曲の中では強弱の激しいところであるにも拘らず、安定感が増す。
が、終楽章に至って、その充実ぶりが、やや力強過ぎ、重過ぎるかと思えてくる。見事な演奏だとは思うし、多くの名演同様美しいのだが。ホールの響きの豊かさも、音楽を大きくしすぎているのだろうか。
ただ、非常に集中力の高い、かつ力の入った演奏、熱演であり、それが克明に捉えられていることは高く評価されるだろう。また、終楽章には柔軟、しなやかなものの方を求める現在の自分の嗜好とは違う方向であるが、好みなど千変万化するものであるから、またいつか聴けば好ましいと感じるかも知れないとも思う。

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