月刊笑福亭たま
笑福亭たま師が毎月一回、繁盛亭で開いている落語会。3月のゲストは桂米輝さん(入門されて14年目、東京でいう真打格なのか二つ目格なのか、敬称をどうすべきかわからない…)、そして、大ベテランというか、超大物というか、笑福亭鶴光師。
鶴光師を拝めるという魅力もあって、朝10開演に向けて日曜なのに平日と変わらない時間に起きて聴きに行ってきた。
開口一番は、たま師が出る会ではいつもお見かけしているような気がする桂雪鹿さん。例によってスマートフォンのマナーモードの物まねから、演目は「子ほめ」。
米輝さんは初めて聴く。演目は「鰻屋」で、これは東京でいう「素人鰻」だなと思いながら聴いていたのだが、帰ってから調べると東京でもこの噺は本来「鰻屋」という題であって、「素人鰻」というのはまた筋立てが違う噺。しかし、志ん生、五代目小さんの系統は「鰻屋」を「素人鰻」と題して演ずるのだそうで、私が認識していたのはこっちだったようだ。ちょっと混乱する。店主がつかむのに四苦八苦する鰻が店主のペット「みーちゃん」で、その鰻が猫のように「みゃー!」と鳴き叫ぶというシュールな擽りが入ってなかなかに楽しい高座だった。
ここでたま師が登場して、本来ならここで「深山隠れ」をやるつもりだったが、今日は落語を聴くのが初めてという方が多いので説明が必要な「深山隠れ」を「みーちゃん」の直後にはやりづらいと、後にやるつもりだった「ろくろ首」を。相変わらず声は大きいし身振りも派手で、眠気も吹き飛ぶ楽しい高座。いつも古典ネタに対しては、落語を知らない人、若い世代にも古い言葉が理解できるようちょっと解説を加えたり、一瞬間を取って噺が客の腑に落ちるのを待って次に進むような組み立てをする。あるいは「ろくろ首」の下げがバレバレなのを「もうおわかりですよね」と言わんばかりに客席を見渡してから語り終えたりと、客席とキャッチボールだかラリーだか、双方向的な―もちろん客のほうは笑ったり頷いたりするだけだが―高座になっていて、こういう演じ方は東京の古い落語好きなんかにはあざといと見られて批判されたりもしそうだが、観客の集中力を途切れさせない面白いやり方だなあと思う。
そして鶴光師。演目は「袈裟御前」。初めて聴く話で、聴きながら、これって「源平盛衰記」だっけ、いや違うか、などと思っていたのだが、源平の争う時代の物語の筋を追いつつ合間合間に小咄というか小ネタを挟んでいく、同系統の亜種とでもいうべきもののようだ。お声には少しお年を感じるが、柔らかい声音は、たま師とのコントラストもあってより一層心地よく客席を包み込む。
そこへもう一度たま師が登場し、今度こそ「深山隠れ」。たま師の師匠である福笑師が鶴光師の弟弟子であることからマクラでは鶴光師から聞いたという福笑師のとんでもないエピソードが語られ場内は爆笑。それに続けてハメモノが入るアクションシーンの多い噺をど派手にやったものだから、恐ろしくにぎやかな高座となった。
最後に、このシリーズは毎回新作ショート落語をやって終わるそうで、今回は面白くない部分を削ったら3分しかなくなってしまったという「冤罪」。
なかなか満腹感のある良い会だったが、何より柔らかい鶴光師のじんわり来る噺を挟んだことでたま師の派手な高座がより映え、また鶴光師は流石という印象を残されたように思う。
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