芸人の遊びと徒弟制度と松本人志の醜聞と

東京の落語界にあって昭和の大名人と称された五代目桂文楽は、何人もの女性と関係していたそうで、長年苦労を掛けた女性をうっちゃって若い子と籍を入れようとしたが周囲に諫められ、その苦労を掛けた相手と入籍したなどというエピソードが伝わっているけれど、色々あっても裁判沙汰になったりゴシップになったりしていないし、後世からの評価に全く影響が及んでいないように見えるのは、時代のせいもあるだろうが、きちんとケアすべきところはしていたからではなかろうか。

一方、上方落語の世界だと、吉本興業の芸人である六代桂文枝(三枝)は、長年付き合った愛人を最後に粗末に扱ってあれこれ暴露され、とんだ恥をかかされた。

今般の問題でちらほら聞こえてくる「遊び」の「きれい」さだったり、遊び方の「せこ」さだったり、要するにこの差は使ったお金の差だったりもするだろうが、何より人品の差なのではなかろうか。


番組の公式チャンネルでいま現在公開されている動画、「ゴレンジャイ」シリーズの第1回である。

このネタ、「ゴレンジャイ」のシリーズは、ヴィランである浜田が、正義の戦隊ヒーローであるゴレンジャイ側に常識が無く戦隊として成り立っていない点を指摘し時には説教したり、あるいはまじめにアドバイスをしたり、というものである。5人の戦隊中にアカレンジャイが二人いて被っていたりするのを、それはないやろと説教するのだ。しかし浜田の説教にもかかわらず回を重ねてゴレンジャイはさらに迷走し、板尾扮する「Rの女」のようなシュールなキャラクターが登場するなどなかなか面白いものだった。

当時聞き逃したか気に留めなかったのか、今となっては記憶がないが、序盤、浜田演じる「ドクロ仮面」がYouに襲い掛かって、「きょうからお前は俺の“カキタレ”になるのだ」と言っている。

こうした業界用語というか隠語を表に出して笑いを取ろうとするのはとんねるずあたりが先だったように思うが、ここまで品のない言葉を20時台の全国ネットの番組で使ってしまうあたりが、ダウンタウン以降の吉本芸人のあけすけな面白さでもあり同時にどうしようもない品の無さでもあるのだろう。

こうした過剰さは、ネタによっては上手くハマりもしたが、見るに堪えないケースも当時からあって、例えば私の場合は「子づれ狼」は今田の切れきれの切れっぷりが好きだったが「アホアホマン」は汚すぎて見ていられなかった。モラルというかコモンセンスというか、どの世界にもそこは越えてはならないというあるひとつのラインはあるのだが、そこを逸脱して見せるとウケる、というのが恐らくは松本人志の成功体験で、それは松本以前には避けられていた手法であるから見る側には新鮮で、ダウンタウンがのし上がる原動力になったのではないかと思う。デビューして間もないころに横山やすしから「悪質な笑い」だと説教されて以来、ダウンタウンというか松本人志の笑いは根のところでは変わっていなかったということだろう。

松本に苦言を呈した横山やすしは、その死の前後に至るまで全国ネットのテレビ番組のコントで松本に揶揄され続けた。ほかにやすしのように厳しく接した先輩がいたのかはわからないが、師弟関係、徒弟制度とは無縁のNSC1期生としてダウンタウンが現れたことは、今起きている不行跡と無縁ではないような気が、少ししている。厳しい下積みをせず、頭の上がらない相手がいない、お手本にする先人もいない。だから、若手の芸人を引き連れてはいるけれど、なんだかヤンキー漫画の、主人公にぶちのめされる敵役の側の高校の、ワルどもの上下関係のように見えて仕方がない。

芸人は何をやっても芸の肥やしと言えるのは、やはり何らかの一線を越えていないからこそで、それを学ぶ機会がなかったのが松本人志の不幸だったのではなかろうか。

と言いつつ、師弟関係の厳しい落語界にあってもやらかしてしまっている6代文枝がいる吉本では、もし師匠についていても変わらなかったかもしれないとも思ってしまうのだが。

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