「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」。

ユニクロが何年か前に出した、ビーチボーイズのアルバム「ペット・サウンズ」のレコードジャケットをプリントしたTシャツを着て、上野のTOHOシネマズへタランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を観に行った。
たぶん「ハッピー・デス・デイ」と「ハッピー・デス・デイ2U」をハシゴしたときだったと思うのだが、予告編を観てブルース・リーらしき登場人物が気になり、調べたらシャロン・テート殺害事件のころのハリウッドを描いたものだそうで、ブルース・リーらしき人物はブルース・リーで、では観てみようかなと思い立ったのだった。

シャロン・テートは怪奇映画などに出ていた女優で、カルト系の殺人事件の被害者として名前ぐらいは知っていたが、それほど興味を持ったことはなかった。カルトの首謀者でありマリリン・マンソンの名前の由来でもあるチャールズ・マンソンについても同様だ。

犯行は1969年8月9日。映画は事件が起きたテートと夫であるロマン・ポランスキーの邸宅の隣に住む、落ちぶれたTV俳優リック・ダルトンと彼のスタントを勤めてきたクリフ・ブースの、プライドを傷つけられたり金に困ったりしつつハリウッドの住人であろうとする悪あがきをしばしばコミカルに描きながら、8月9日へと進んでいく。

途中、リックの自宅前に1台の車がやってくる。隣家へ続く私道は鉄扉でふさがれており、そこから先へ行けなかったその車に乗っているのが、マンソンだった。
「テリーとデニス・ウィルソンを」訊ねて来たのだとマンソンは言い、ダルトンは彼らは引っ越したと伝える。
ここでデニス・ウィルソンの名前が出るとは。
テリーと言うのはジャン&ディーンなんかとも仕事をしていたテリー・メルチャーのことだろうか?
他の服を着て出かけるつもりがなぜか出かける直前にペット・サウンズのTシャツを着た偶然に、少し震えた。
帰ってから調べたら、マンソンは音楽の世界で身を立てようとしていて、自分を売り出してくれないテリーを恨んでいたらしい。デニスに至ってはマンソンの後見人だったそうで。

かつての主演作品の中でナチスを焼き殺すリック。ブルース・リーと戦って軽くあしらってしまうクリフ。カルト的なもの、神格化された何か、プロパガンダ。そういったものが、コテンパンに虚仮にされる。
そして、マンソンファミリーと彼ら2人がからむクライマックス。
リックの家に押し入る直前、ファミリーの一人がこんなことを言う。「ルーシーショー以外のTV」は自分たちに人殺しを教えた(ここはかなり笑えるところなのにあまり笑い声が立たなかったのはちょっと寂しいが、ルーシーショーを知らないか…)、人殺しを教えて金儲けをした連中が住むのがハリウッドだ、と。だから自分たちがこれから犯そうとする殺人は正当であると。

そんなわけないだろとばかりに、リックとクリフは、ハリウッド的なマッチョな手段に出るのだが、ここから先について記すのは野暮である。
私たちはしばしば映画やドラマに感化されたり勇気づけられたりもするけれど、映画はあくまで映画であって、信奉する対象ではない。ひと時の夢である。
そう、夢なのだ。だからこの映画のエンディングも夢なのだ。
つい先日、「シャザム」のエンドタイトルのバックに流れるラモーンズの「I Don't Want to Grow Up」にちょっと涙を流しつつ、コミックスの世界は子供の夢なんだ、それでいいんだと、いや、だからこそいいんだと心打たれたばかりの私は、なんとなく清々しい気分で上野を後にした。

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