文京シビックホールで入船亭扇遊、三遊亭兼好二人会。

夏に中野まで入船亭扇遊さんの独演会を聴きに行き、その場で、土曜の公演なら行けるだろうとチケットを買っておいた落語会がようやく開催を迎えた。
扇遊さんと、三遊亭兼好さんの二人会。お二人それぞれ二席はやるだろうから、たっぷりしっかり落語を聴くことができるだろうと期待感も高まる。
会場は文京シビックホールの小ホール。初めて訪れる。それどころか、このホールがある後楽園界隈にやってくるのも初めてだ。
開演10分ほど前に指定席に座り、スマートフォンの鳴動を切ったりしているとそのうちブザーが鳴って、周りを見回すと席はほぼ埋まっていた。流石に二人会だとそれぞれのファンが集まるわけだ。

前座は兼好さんの二番弟子という三遊亭じゃんけんさんで、「三人旅」の序の段。ちょっとあがっていたか、最初はせっかちで聴きとりづらかったが、そのうち落ち着いたのか、気風の良い語り口になってきて、まずまず上手く収めた感じ。

続いて扇遊さんの一席目。前日のソフトバンクの通信障害をいじったりしつつ、いまだに携帯電話すら持っていないというご自身の話、そして、流行語大賞に触れたりしつつ時代の変化について語り、昔の寄席では客が昼寝をしていたという話から「夢の酒」へ。
「落語研究会」か何かで、他の方の高座を聴いたことがあるネタだが、ヤキモチ焼きで怒りっぽい嫁のお花が非常に良い。CDになっている「厩火事」でもおかみさんが出色なのだが、やはり扇遊師匠はおかみさんが上手いと思うのだ。
そしてこのネタで、酒好きの大旦那が酒を飲めずに悔しい思いをしているのが、あとのネタへの伏線になっているかのようで面白かった。

兼好さんについてはこれまで聴いたことがなく、今回、あえて事前に情報を仕入れずに臨んだ。その一席目は「寝床」。貴乃花一門の話題などに触れながら「パワハラ」をマクラに。なるほど、下手な義太夫を無理やり奉公人や店子に聴かせるのはパワハラか。
「寝床」は、私自身は入船亭で馴染んでいる。それと、兼好さんの師匠である三遊亭好楽さんの二人目の師匠が五代目円楽で、その師匠は言わずもがな六代目円生であり、円生の「寝床」もCDを持っていてよく聞くわけだが、組み立てとしては入船亭はもちろん円生の噺とも違う、独特のものだった。怒った主人が店子を追い出せとわめいて、その後の店子の会話をすっ飛ばし、皆が義太夫を聴きに集まって茂蔵が主人を懐柔する場面に一気に飛んだり、あるいは、カムチャッカのくだりがないどころか昔いた番頭さんの逸話がまるっきり無いとか。それに茂蔵がなかなかに現代人的な受け答えをしたりするのも一風変わっているが面白い。下げは変えられないわけだが、もともと下げにそれほどパンチが効いているわけではないから、途中をちょっと今どきの人にもわかりやすく、テンポも良くアレンジしたという感じだろうか。
それと、店子に他のネタに出てくるがこのネタには普通出てこない「岩田のご隠居」がいるのは、扇遊師匠の本名に因んだものだろうか。

仲入り後、兼好さんの二席目は「元犬」。お店噺の本流、王道といった感じの「寝床」を先にやって、その後にちょっと軽いネタで出番を終えるというのはなかなか面白いし、トリの扇遊さんへの粋な計らいのようにも感じたが、どうだろう。
「寝床」同様、会話のリアクションをちょっと大げさなぐらいにはっきりと見せて、表情も駆使してくすぐってくる。爆笑系というのだろうか。古典だけれども、噛み砕いてあって、スピード感のある、今の芸だなと感じた。



トリの扇遊さんは、落語界の身分制度の話をはじめて、おや、これは「妾馬」だなと。CDで聴き馴染んだ噺だが、いっそう丁寧でいて力強い。CDは2009年4月の録音で、10年近く経っているのだが、これが円熟というものだろうか。
で、「夢の酒」で飲めなかった分、八五郎がしたたかに飲んで酔っ払う。2回生で聴いた「試し酒」でも感じたが、飲みっぷりと、酔った芸がまたいいのである。そして酔った八五郎が身分の違いで孫に会えないという母親の悲しみを訴えるあたり、不覚にも目から汗が出た。周りにも、何やら目元を拭っている人がちらほら視界に入る。いやあ、まいった。

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