「ボヘミアン・ラプソディ」を観に行った。

なぜ今頃になってフレディ・マーキュリーの伝記映画が作られたのだろうと、少し不思議に思いながら静観していた「ボヘミアン・ラプソディ」。劇場へ足を運ぶつもりは無かったのだが、家内が「ファンなんだから観に行きなさいよ」と言うので、12月1日は映画の日で安くなるからまあええかと、観に行くことにした。
四半世紀ほど前だったか、新婚旅行で訪れたロンドンでフレディがプリントされたTシャツを買って帰ったことなど、ふと思い出した。

実のところ、少なくとも“現代の人物”を題材にした伝記映画と言うものに、あまりよい覚えが無い。ジェイソン・スコット・リーがブルース・リーを演じた「ドラゴン」とか。音楽ものでも、ジョン・レノンを扱った「イマジン」のようなドキュメンタリーであれ、映画として作られた「ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男」であれ、まあ、結局映画としてはそんなに面白くも無いなあという感想しか残らない。世評の高い「ジャージー・ボーイズ」なんかも、そもそもフランキー・ヴァリは日本人の目にはあまり人相はよくない方だと思うがそれ以上にヴァリを演じた役者さんが悪そうに見えて仕方が無かったし、話の方もなんだそれだけかと言う印象。例外的にJ.B.の「ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~」は、さすがにもとの素材がめちゃくちゃなのでちょっと面白かったし、「キャデラック・レコード」も自分にあまりマディ・ウォーターズに関する予備知識がなかったのと、周辺の登場人物の濃さのおかげで楽しめたが、大体においてこのジャンルの映画は面白く無いものだという刷り込みができあがっている。
あるいは、スプリームスの来歴を下敷きに脚色したミュージカルの映画化であった「ドリーム・ガールズ」あたりの方が、事実に拘らずに済むからこそであろうがドラマティックでよっぽど見ごたえがあったし、特にクライマックスなど実際の出来事とはかけ離れているが、物語としては美しかったわけで、メジャーデビュー前にビートルズを抜けたスチュアート・サトクリフにフォーカスした「バック・ビート」のように、日のあたらない人物を描く場合を除けば、多くの人が知っていること(ファンの場合ならなおさら)をなぞると言う制約の中で、ストーリーにも演出にも限界があるのは仕方が無い。しかしそれは、とりもなおさず伝記映画と言うものの克服し得ないハンディキャップではなかろうか。とどのつまりは、素材が面白ければ面白くなるし、悲惨であれば悲惨になるという、それだけの事かも知れないが。
また、(取り上げられた人物の)ファンが観る可能性が高く、しかも熱いファンほど配役や演出の細かいところまで気になって怒ったり非難したりしそうなところ、伝記映画は漫画原作の実写映画化作品とよく似ているようにも思える。



さて、映画の日のTOHOシネマズ上野。少しでも混雑は避けたいので朝一番の回に出向いた。空港で雑役に就くフレディが、ヴォーカル兼ベースにやめられて困っているブライアンとロジャーに声をかけ、自分の実力を歌って聞かせ、二人が思わずコーラスをつける。その場面(これは実際にあったことかどうかよくわからないが)だけで、ちょっと泣いた。
これは、やばいな。フレディの映画なんか見たらそりゃちょっと泣くよな。と、後悔先に立たず。
ところどころ脚色はある―それは物語をシンプルにするために行われている―し、ソロアルバムを作ったあたりのエピソードなどは、クライマックスのライブ・エイドを引き立てる材料になってしまっていて、もうちょっと掘り下げてほしかったが、贅沢は言うまい。よくまとめられた、伝記映画としては珍しく当たりの作品だった。ブライアンとジョンの役者さんのなりきりっぷりも良かったし。

観終わると昼飯時。昼でも夜でも、飯のタイミングで上野、御徒町界隈にいたら、ファーストチョイスはとんかつの「山家」と決まっている。週末の昼時だから並ぶのは仕方が無いと思いつつ店の前に行ったら、いつもの倍ぐらい並んでいて、あきらめて帰った。

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