蜃気楼龍玉独演会「DRAGON BALL」。

今月4日の庚申塚スタジオフォーの「四の日昼席」、5席聴いて、もっとも印象に残ったのが蜃気楼龍玉さん。もっと聴いてみたいと思ったがCDなどの音源をほとんど出しておられず、会はないかと探したら、調べているうちに、去年の10月に住まいに近いところで、師匠の五街道雲助さんと兄弟子の桃月庵白酒さん―私は何故だかわからないが額が狭い人が苦手で、額が狭い人を見ると額の狭さが気になって落ち着かなくなる。なので、白酒さんはちょっと苦手なのだ。白酒さんには何の罪もないのだが―客演で独演会があったと知り、ああ、気がついていなかったな、残念だなと思ったが仕方がない。すべての噺家さんの芸風を知り、気に入る方を見つけて追いかけるなどと言うのはよほどの暇がないとできないわけで、まあ、偶々こういう出会いがあり、ちょっと深掘りしてみようかと言う機会があったのだから、それで十分と考えるべきだろう。
そんなこんなで今月17日と24日に会があるのを見つけたので、取り急ぎ17日の方、人形町の社会教育会館の独演会のチケットを取った。

この独演会、演目として、「鰍沢」だけが公表されていた。前座さんが演って、その後龍玉さんは2席か、3席か。で、トリが「鰍沢」ということだろうか。なんとも陰惨な印象の噺だが、龍玉さんは「殺しの龍玉」と呼ばれたりしているそうで陰のある噺はお手の物らしく、それと、長い噺もよくやるそうだから、このネタはうってつけなのだろう。

さて、人形町の社会教育会館といえば、1年半ほど前に入船亭扇遊さんの独演会を聴きに来て以来。狭くもないが広すぎず、席には傾斜が付いていて噺家さんの動きも観やすくてよい。

予約の時点で空席は数えるほどだったが、埋まっていたあたりも空席がちらほら。もったいない。
前座は兄弟子白酒さんのお弟子さんだろう。桃月庵ひしもちさんで、「転失気」。
声からしてかなりお若いのだろうが、なんとなくお爺さんっぽい顔立ちで、古今亭~金原亭一門で扱うのかどうかわからないが、「狸賽」あたりの民話っぽいネタがしっくりきそうだった。

龍玉師匠はと言えば、まずこの独演会のタイトルにちなんで、著作権がらみで物言いがつかないか、といったところから落語界を揺るがす例の襲名問題に触れたりして場を暖める。そして「ぞろぞろ」を軽く。しかし、ただ面白おかしいというのではなく、噺の底にあるオカルトっぽさが滲みだしてくるような気がしてしまうのは、「殺しの龍玉」という二つ名にこちらが先入観を持ち過ぎなのか。
続いて「夢金」。かつて桂枝雀さんは、「緊張の緩和」というセオリーを掲げておられたと聞く。緊張を高めて、一気に緩和させる。笑いが起こる。それを意識されているかどうかはわからないが、龍玉さんは、この、緊張状態を作るのがうまいと感じた。
トリの「鰍沢」は、そんな龍玉ワールドにうってつけだろう。筋を知っていると、あばら家の女が犯意を抱く瞬間が、いつ来るかいつ来るか、昔話に花が咲いている間も緊張を強いられる。もともとサゲは無理やりっぽいしそれほど笑えるネタではないから、どれだけ物語世界を現出させるかが肝だろうが、あまりいろいろ聞き比べていない身で偉そうなことは言えないが、いい高座だったと思う。ちょうどこの日急に冷え込んだ気候と相まって、なんだか雪の夜の冷たい恐怖が高座から立ち上っていたように感じたのだ。

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