巣鴨のスタジオ、「四の日昼席」で落語五席を聴く。

近くの町屋駅上のビルで定期的な寄席があるのだが、3月3日のチケットが取れず、この週末ほかに何かよさそうな会はないだろうかと探してみたら、巣鴨というか鉄道駅で言えば都電荒川線、いや、いまは桜トラムというのだったか、そのトラムの庚申塚の近くにあるスタジオで、毎月四のつく日に落語会があるという。
で、トラムに乗って聴きに行ってきた、いや、やっぱり都電と言ったほうが雰囲気があるというか違和感がないな。色川武大「寄席放浪記」を読みながら、都電でのんびり出かけてきた。



スタジオフォーという貸しスタジオなのだが、ローランドのJCが置いてあるようなロック系のスタジオではなくて、ピアノがあって、アコースティック向けにやっているそうだ。
そこのスペースに椅子を並べ、60~70席ぐらいで会を開いている。
少し余裕をもって着いたらまだガラガラだったが、あとからあとから人が来て、満席で開演。以下、出演順に演者と演目とメモ。

初音家左橋「壺算」
 左橋さんは先代金原亭馬生さんのお弟子さん。
 この噺は歌丸さんのCDを持っていて、他にも聴いた気がするが、5席続くとあって多少尺を詰めたのか、「徳さんは腹黒いから」とかそういうくだりはなかった。
 騙されて壺を売ってどうにも勘定が合わず、かといってどこがおかしいのか気づかない瀬戸物屋の困る様がなかなかよかった。困り顔が面白い芸人さんとか役者さんというのがいるように思う。古いところではコント55号の坂上次郎とか、まだネタをやっていたころのダウンタウンの浜田とか。

古今亭文菊「一目上がり」
 先代古今亭円菊さんと言えば、噺には妙な節回しのようなものがあり、仕草も奇妙で異端児的な存在に見えるのだが、その弟子で、聴いたことのある菊之丞さん、円菊さんは、江戸っ子らしい切符の良さと力のある確りした語り口、豊かな声量の本格で、どうも不思議で仕方がない。
 働き方改革と裁量労働制をマクラに、そんなものが導入されたら笑ってもらえるまで噺をやめられないというのが面白かったが、同時に、長年すでに裁量労働制が当たり前になっている業種に身を置いて感覚がマヒしていることに気づかされてしまった。

桂やまと「鹿政談」
 舞台が関西だというだけでなく、上方から伝わったネタ。円生さんの録音を聴いたことがあるが、大阪生まれだから関西の言葉は得手であろうに、意外とイントネーションを抑えていたように思う。それに比べると、不思議なことに祖父の代から東京というやまとさんのほうがこてこての関西弁という感じ。最初はテンションが高くてついていけないかと思ったが、お白州あたりから堂に入った感じがなかなかはまっていた。

蜃気楼龍玉「もぐら泥」
 「落語研究会」の録画を見ていて、五街道雲助さんが出てくると、なぜか家の猫がテレビの中の雲助さんにちょっかいを出そうとする。その雲助さんのお弟子さんである。
 長身痩躯という感じで、高座に上がってぬっと出てきた雰囲気は、失礼ながらちょっと怖いお兄さん風。だが、この会には本日代演で、これまでだいたい年に一回ペースで呼ばれているから、今年はこれが最初で最後、というつかみで座が温まる。続けて泥棒にまつわる小話ふたつ、これでドカンと笑わせてネタへ。
 高くはないが通る声で、ささやき声がくっきりしていて聴いていて気持ち良い。要所でドスを利かせたり、一転弱くなったり、メリハリもいい。これは自分好みだが、CDなどパッケージソフトは出ていないようだ。と、言うことで3月17日の独演会のチケットを取った。ネタが「鰍沢」というのはちょっとヘビーだが…。

隅田川馬石「松曳き」
 龍玉さんの兄弟子だが、ちょっと顔立ちなど入船亭扇遊さんに似ていると思うのは私だけか。声は扇遊さんより柔らかくて穏やかだが。
 植木屋と三太夫のやり取りには「妾馬」と同じところもあるが、こちらはその後の三太夫の粗忽ぶりをどれほど際立たせるかが肝。その点、粗忽ではあれど大名の側用人らしく、柔らかい声音と砕けすぎないたたずまいでとぼけ続けられるとおかしくて仕方がない。このはんなりとした品の良さには、昔テレビで見聞きした程度だが、米朝さんあたりに通じるものを感じる。

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