シネマート心斎橋で「修羅 黒衣の反逆」を。

大阪は、西心斎橋の通称アメリカ村に、ビッグステップという、かつてセレクトショップ御三家が日本で唯一ひとつの館に揃い、全国から関西に来る修学旅行生が自由時間に必ず訪れると言われるほど栄華を極めた商業施設がある。
大阪市の土地信託事業で、銀行が土地を借りて商業施設を建て、利益が出たら市に還元するというスキームで生まれたものだが、やがて景気の後退とともに悪循環に陥り、市は競売にかけて、海外のファンドが落札。ファンドは商業施設としての運営を阪神電鉄系に委託していたが、今は別のところに代わっているようだ。

と、経営、運営は代わり、テナントについても往時の見る影もない状況だが、開業以来、この施設には映画館がある。ユニークな作品を取り上げる小規模な映画館というか、単館系というか、いまでは普通に「ミニシアター」というのだろうが、その数では、大阪は東京にかなわない。そうした中、ビッグステップ同様この映画館の経営とか運営にも変遷があるものの、今も営業を続けているのである。結構息の長い、貴重な存在ではなかろうか。ちなみに現在は、新宿にあるのと同じ、「シネマート」になっている。

昔、ジェット・リーの「ブラックマスク」や「ワンスアポンアタイムインチャイナ 天地風雲」を観て以来だろうか、週末は久しぶりにここの小屋を訪れ、チャン・チェン主演の「修羅 黒衣の反逆」を観た。
邦題のトーンがまるっきり違うのでわかりにくいが、2014年の「ブレイド・マスター(原題:繍春刀)」の前日譚だ。

明末に差し掛かる万歴37年というから1619年のこと。遼東の異民族との戦場。累々と連なる死体の中から起き上がった男が一人。
歩き出せば、敵に捕まった兵隊が二人、今にも殺されそうになっており、男は見事な刀術で敵兵を倒す。
時は過ぎ、その男、沈煉は、明朝宮廷におけるCIA的な秘密警察組織である「東廠」の下部組織、「錦衣衛」の北鎮撫司に属する百戸長(ここではそう呼んでおく。劇中では「沈百戸」と呼ばれており、上司は「千戸」)になっている。彼がかつて戦場で助けた男の一人である陸は、政治の実権を握る宦官の魏忠賢に取り入り、沈の上官に収まっている。
宦官が殺された事件があり、次いで、北斎という絵師が、作品の中で朝廷が駆逐した東林党を称えたという。次から次へと、秘密警察は忙しい上に、魏忠賢の甥だという同僚が、手柄を自分のものにしようと絡んでくる。
北斎を捉えるよう命じられて、その同僚とともに出向くが、意外にも北斎は女性で、沈は少し前に彼女に出会っていた。役目を忘れたわけではなかろうが、結局沈は、相手が女だからと強姦してから殺そうとする同僚を殺してしまう。
事件から外されたうえ後任として捜査を担当する南鎮撫司の裴には疑いをもたれ、さらには事の真相を知るという謎の連中から、東廠の書庫に火をつけろと強請られる。仕方なく火を付けに行ったら捕まりそうになり、どうにか相手を倒すが…。
とにかく次から次へと問題が起きる。出口が見えない。しかしあがいて、事件の背後に迫り、生き延びようともがく。単に巨悪が敵なのではなく、権力を巡って敵味方が入れ替わり、しかもその底にはただ欲望だけが横たわるのではなく、理想、純粋な思いもあってやるせない。なかなかの良作だと思う。

ただし、前作であり後日譚でもある「ブレイド・マスター」の登場人物が、魏忠賢を除いて何時まで経っても出てこないので、どうつなげるのか、多少心配しながら観て、結局ちょっと時間の経過に問題があるように思えた。そのあたりをほじくり返すのは無粋かもしれないが、魏忠賢が失脚して都落ちする道中で亡くなる(前作の劇中では沈煉が暗殺に向かう)のが、本作の終わりから3か月後だと語られる。前作の沈の義兄弟たちが本作には登場しないので、3か月で命を懸けるほどの親交を温めるのかと思うと、ちょっと無理がある。身請けしようとしている娼館の娘との関係も、その短い間に深まったのか、と考えると無理があろう。
まあ、パラレルワールドだと考えればよいか。

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