映画「寝ぼけ」公開記念、入船亭扇遊独演会へ。

夏に東京に来ることになり、色々あって手放しで気楽に来れたわけではなかったのだが、落語だけは楽しみにしていた。しかし、9月に入船亭扇遊さんの独演会があると知り、引っ越して落ち着いたらチケットを取ろうと思っていたら売り切れになっていたり、また、面白そうな会があっても平日夜だったりと、なかなか観る機会がなかった。
この週末も、本来は大阪に帰るつもりだったのだがわけあって週半ばに予定変更、すると、土曜に扇遊さんの独演会があり、しかもまだチケットが買えるということで、ようやく念願かなって、生の扇遊さん、東京の落語初体験とあいなった。
出演されている映画「ねぼけ」の公開を記念した独演会だ。

映画「ねぼけ」公式サイト

「ねぼけ」は、噺家としても人としてもダメダメな男、三語郎を主人公にした話で、その師匠役を扇遊さんが演じておられる。12月17日から1月13日まで、新宿のケイズシネマにて、毎日朝10時半からの1回上映だそうだ。扇遊さんは劇中で、「替り目」という話を演じておられるが、持ちネタになかったものを古今亭菊之丞さんに教わったという。しかも、今後も高座にかけることはないとのことなので、ぜひ映画を観に行ってみようと思う。

さて、日本橋社会教育会館という、200人ほどのキャパのホール。9割がた埋まっているだろうか。お互い顔見知りらしいお客さん同士、挨拶をかわす姿があちこちにみられる。おそらくは落語会や寄席によく通っておられる方が大半だろう。「あたくしは扇橋さんが好きで」などと、斜め後ろのお婆さんが話しているのが聞こえてきたりする。
三語郎役の俳優、友部康志さんが、進行役というか、上演中の注意やら、あれこれ働いておられるのも、映画製作陣の手作り感が出て微笑ましい。

すでに客席は温まっている感じのところで、幕が上がる。

枕からケチな人の話に移り、これはもう、これまでCDで聞きまくった「片棒」だろうかと思っていたらその通り。一番好きな扇遊さんの片棒を生で聞き、見ることができた。
何度も聞いているからよくわかっているけれど、残念ながらCDではわからない、おそらくは動作で笑っているのだろうと思われるところ、それをしっかり目に焼き付けることができたのはありがたかった。

ゲストは柳家三語楼さんで、演目は「くしゃみ講釈」。映画では落語の所作指導などを担当され、一瞬出演もされているらしい。
非常に力の入った熱演で、抜けた主人公がのぞきからくり節を歌う巣頓狂な様子やら、講釈師の堂に入った語りぶりとくしゃみでボロボロになるところの対比やら、見事な演じっぷりだった。

中入り、壱岐紀仁監督と友部さんの控えめなあいさつの後、着替えて出てこられた扇遊さん。二本目のネタは「試し酒」。これも、聞かせるというよりは演じる噺と言ってよいだろう。五升の酒を呷る下男の飲みっぷり、杯を傾けるさま、喉を鳴らす音。
落語を「見る」と言った弟子に落語は「聞く」ものだと叱ったのは円生師匠だったろうか。しかしこのネタは、見るものでしょう。そして、これはもう、なんと、いいものを見せてもらったか。

「片棒」だと次男のくだりぐらいだが、この日の演目は、映画公開記念ということで「語る」というより「演じる」ネタを揃えたのだろうなと、終わってから考えた。
非常に楽しい時間を過ごすことができた。

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