ZERO AUDIOのBAイヤホン、CARBO SINGOLO(カルボ シンゴロ)。

どうも最近粗忽の度合いが過ぎているのか、オーテクの廉価BA機に続き、AKGのY20Uも断線しかけている。猫が噛んだか、かばんのファスナーで噛んだか、いずれにせよこちらの責任の範疇なので、補償の対象にならない。
SONYのMDR-XB70とTDKのTH-EB900が手元にあるが、前者は元気がよすぎて聴き疲れするし重さを感じて装着感が今ひとつだし、後者はかつては心地よいと感じていた低音が中高域を圧迫してよろしくない。となると何か新しいものを、と考えるのだが、Y20Uをしばらく使っていて、結局通話にリモコンとマイクを使うことはほぼ無かったので、今度は普通のイヤホンでよいだろう。あとはダイナミックか、BAかとか、色々選択肢があるが、試聴してみて考えることにした。

SHURE SE215-CL
1万円前後の定番、人気商品だ。コンプライイヤーチップが付いていたのでそのまま聴く。本体の形状とケーブルの出し方ゆえか、耳への収まりがあまりよく無い感じで、イヤーチップもうまくなじんでいないのか、スカスカな音になる。どうにも装着に慣れられそうな気がしない。SHURE掛けを前提とした機種は、もともと付け心地が悪くて常に候補から脱落させてきたが、一生無理かなと思う。
派生機種のSP215-SPEも同様。装着の時点でダメだ。

SHURE SE112
付属のイヤーチップのまま聴く。なかなかよい。煌びやかさは無いが、落ち着きを感じる。どこかが強調されるのではなくフラットで、嫌なところが無い。加えてケーブルの分岐部など全体に無骨なつくりで安心感があり、また、この形状ならケーブルを前方に出してシュア掛けをしても違和感が無い。
5千円台と手ごろな価格で、突出した何かはないが、絶対的な安全パイと言うか、間違いの無いものという気がする。

BLUE EVER BLUE 878B
非常に評判のよいブランドで、一度聴いてみたかった。2年前の自分なら即決で買っていたであろう、低音の出のいい機種。しかも、XB70ほどガチャガチャしていない。しかし、TH-EB900ほどではないにせよ、中高域が圧迫されている。
アルミのステム(本体からケーブルを出すところの足のような部分)が長くてウェイトバランスや肌への当たりがやや不満なのと、コードスライダーが無いなど、ちょっとマイナス点があるのが惜しい。

ZERO AUDIOあれこれ
ゼロオーディオのイヤホンは、随分前に最初に出たBA型を聴いて、よくBA型にありがちな遠くで鳴っているというか、箱の中で鳴っているのをマイクを通して箱の外で聞いているような感じで良い印象が無かった(上位機種ではそんなこともなく、好みの違いで選ばなかったが)。ちょっと前にBA型を買ってみようと思った際、ゼロオーディオの新しい機種のことは知らなかったので候補に入れていなかったのだが、ダイナミック型でカーボンとアルミのコンポジット(十年ほど前のロードレーサーのフレームのような構成だ)の機種が人気を博し、さらに2年ほど前に出たBA型の新機種も評判が良いと知り、今回あれこれ試聴してみた。イヤーチップはすべて手持ちのオーディオテクニカ製ファインフィット、Lサイズに取り替えている。



CARBO SINGOLO
BA型の2機種は、シングルドライバのSINGOLOと、ツインドライバのDOPPIO。SINGOLOはちょっと驚くほど小さいつくりだが、出力音圧レベルが113dBと非常に高能率で、芯のあるしっかりとした音を出す。箱の中で鳴っているような感じは無い。また、f特は10~16KHzとなっているが、高いほうが切れてしまっているわけではなく、BA型らしく高域は数値よりは綺麗に聴こえる。一方で低域はダイナミック型のような圧力は無いので、数値ほどには感じない。
いつも試聴時にはポール・トルトゥリエのバッハ、無伴奏チェロ組曲の第一番のアリアと第四番のジーグを聴くのだが、最初にジーグを聴いてみて、柔らかい空気感の中にチェロの像がすっと決まったところで、これは良い、と唸ってしまった。ハイティンクのショスタコーヴィチの5番なんかだと、ややスケール感に乏しいが、キャロルの「夏の終り」なんか聴いても普通にベースラインが聴こえるし、悪くない。そして何より良かったのが、三代目桂三木助の「芝浜」で、映像や写真でしか見たことの無い三木助師匠ではあるが、非常に生々しく、頭の前に浮かび上がって来た。チェロ独奏と落語、どちらも音源は一点であることがなおさら有利に働いたのだろうが、コンパクトで恐らく内部に余分なスペースの無いつくりと相俟って、定位がうまく決まったのではないか。

CARBO DOPPIO
続いてDOPPIOの方も試聴したが、SINGOLOのような結像が得られない。確認のためにSINGOLOをもう一度聴き、またDOPPIOを聴いたりしたが、やはり随分と違う。SINGOLOと同じフルレンジユニットを2つ積んでおりその分筐体も大きいためか、さすがにイヤホンの小さなサイズでユニットが複数並ぶことによって定位が曖昧になると言うことは無さそうだが、SINGOLOの見事さと比べると、何か影響があるように思える。もっともフルオーケストラの場合などこちらの方が音場が豊かと言うかスケール感が出る点は優位で、同じユニットのシングルとダブルを発売している意図はそのあたりなのかも知れない。

その他
次いでダイナミック型のTENOREとBASSOを聴いたが、SINGOLOを聴いた後では特に傑出した点が感じられず。ダイナミック型で2ウェイのDUOZAは筐体が大きく装着感がいまひとつ。

結論として、SINGOLOのくっきりと音像を結ぶ気持ちよさが気に入った。ジャンルや編成などにより向き不向きはあろうが、帯域バランスは悪くないし高能率だし、実売7千円台の価格に対しては高い満足度が得られると思う。DOPPIOは倍近い実売価格だが、私は両者が同じ値段であっても好みでSINGOLOを選ぶ。

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