入船亭扇遊さんの新譜、「三井の大黒」「人形買い」。

昨夏に亡くなられた入船亭扇橋さんは九代目だが、八代目は1944年に亡くなっていてつながりは無く、真打となって空いていた名跡を受け継いだようだ。二つ目時代の名は柳家さん八で、人間国宝の五代目柳家小さんの門下であるものの、元は三代目桂三木助に弟子入りし桂木久八と名乗っていた。
三代目三木助死去によって五代目小さん門下に直ったとのことだが、そうした経緯から、扇橋さんのCDなど集めてみると、「狸賽」など小さんから伝わったであろうネタと、三木助直伝であろうネタとがある。後者の代表が「ねずみ」「三井の大黒」と言う、左甚五郎が登場する噺で、その、入船亭のお家芸とも言うべき左甚五郎もの、「三井の大黒」が、入船亭扇遊さんの新譜で出た。



三代目三木助の「三井の大黒」はCDになっており、また、三代目三木助十八回忌の年、扇橋さんが「ねずみ」と「三井の大黒」を続けて語った会があり、この模様が「高座55周年 特撰 入船亭扇橋」CDセットに収められている。師弟三代にわたっての録音がこうして聴き比べられると言うのはなかなか素晴らしいことだ。
下げが笑うようなものではなく、講談のような噺で、江戸っ子の大工連中と、彼らに比べれば落ち着き貫禄のある親方政五郎と、つかみどころのないぼんくらを装っているかのような「ぽんしゅう」こと左甚五郎とのやりとりに味わいがあるのだが、それを演じる三者三様、それぞれに魅力がある。
三木助は流石に「芝浜」の魚勝に通じる江戸っ子のせっかちな掛け合いが気持ち良い。
昔ばなしのような味わいがある扇橋さんでは、ぽんしゅうのとぼけた様子がひときわ面白く、また、落ち着きのある政五郎が懐の深さを感じさせる。
そして、扇遊さんだが、大工連中はやや早口で気風の良い扇遊さんらしい演じ方、政五郎はぐっとと落ち着かせて渋みを出し、そしてぽんしゅうはと言うと、師匠扇橋さんにそっくりだ。師弟の録音を聴き比べたのは「寝床」ぐらいだが、ねたのつくりは一緒でも語り口は夫々の味、しかしこのぽんしゅうは、瓜二つ。ただ、還暦を越えても声が高めで張りのある扇遊さんだけに、とぼけたぽんしゅうも少し若々しく、茶目っ気が滲み出ている。師弟の芸の命脈のようなものを感じつつ、演者により千変万化する落語の面白さを教えられた感がある。

フィルアップの「人形買い」も、扇橋師匠の録音は見つからないが、小学館の「桂三木助大全集」に録音が2種も含まれているあたり、三木助直系のねたらしい。これはもう、長屋のちょっと間の抜けた二人が右往左往する話であるから、扇遊さんのスピード感がよく生きる。パッケージソフトとしても、じっくり聴かせる噺と、とんとんと笑わせる噺の組み合わせになって、良いバランスだ。

それと、このCDは2015年、14年の録音なのだが、まくらで一門のことに触れておられる。病に倒れた師匠の名を忘れられぬ様にと言う、惣領弟子としての思いの表れだろうか。

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