マゼールの春の祭典と、ハインツ・レーグナー指揮読響のマーラー9番。

先日、梅田を通ったついでにマルビルのタワレコを覗いたら、ハインツ・レーグナーと読売日本交響楽団のマーラーの9番が特価になっていたので、以前から気になりつつウィーンフィルだからと躊躇っていたマゼールの春の祭典といっしょに購入した。



マゼールの春の祭典は、今回購入したウィーンフィルとのデッカへの録音が最初(1974年)で、他に流通しているものとしては、クリーブランド管とのテラーク盤(80年)、バイエルン放送響とのライブ盤(98年)がある。クリーブランドは今では入手が難しく、バイエルンはライブ、この最初の録音はオケがあまり良い思いをしたことの少ないウィーンフィルと、いずれも手を出しづらいものなのだが、結局買って聴いてみると、曲そのもののつくりがガチャガチャして暴力的であるためだろう、しばしば好ましくないと感じるウィーンフィルだがすんなり聴き通せた。むしろ、先ごろムーティとフィラデルフィアのディスクを聴いた後では、マゼールにしてはおとなしい、穏健な録音とさえ思えるものだった。
いっしょに収録されているリヒャルト・シュトラウスの「町人貴族」は、ピアノ、ヴァイオリン、チェロのソリストを加えたもので、と言っても協奏曲のようなつくりではなく、ピアノをフィーチュアしたオペラの組曲編曲版といった感じの曲。これが、なかなか木質系というか、芯の太い温かい感じの音色で、しばしばウィーンフィルの録音から感じる神経質でピーキーで高音が耳に刺さるようなところが無い。ウィーンフィルでも何もかも悪いわけではなく、もちろんマゼールとウィーンフィルのマーラーなんかも悪くなかったわけで、録音側(例えばデジタルになってからのグラモフォンだといやらしい感じになるとか…)にも因るのだろうかと、考え直している。


ハインツ・レーグナー指揮、読響のマーラー9番ライブ。録音は1988年、東京文化会館。
レーグナーの録音を買ったのは今回初めてだ。10年ほど前だったか、ブルックナーを聴いてみようと思ってレーグナー指揮のものを注文したが入荷しなかったことがあり、それっきりだ。
そのとき何故レーグナーのディスクを選んだかと言えば、たぶん、彼が旧東側の指揮者だったからだろう。
かつての東西冷戦時代、スポーツの分野では、ソビエト連邦や東ドイツの選手がしばしば圧倒的な力量を見せていたが、クラシック音楽の分野でも、鉄のカーテンの向こうに怪物みたいなのがいる、そういうイメージはあった。だから、30年以上前、クラシックに興味を持ち始めて間もない頃にはスウィトナーのベートーヴェンを買ってみたりしていたのだろうし、ずっとそんな印象が抜けていないのだと思う。
なお、このディスクのパッケージでは、まず指揮者の名が「レークナー」と表記されている。このため、AmazonなどECサイトで「レーグナー マーラー」で検索してもヒットしない。クかグか、どちらが正しいんだかわからないが、売れ行きに影響が出たりするのではないかと思える。
それはさておき、帯なんかにも書かれているのだが、兎に角速い演奏。69分台だ。手持ちで恐らく一番速いのがノイマンとゲヴァントハウス管の演奏で約76分。最も遅いマゼールとフィルハーモニア管の演奏が90分超。同じ曲とは思えないほどの差がありそうだと身構えて聴く。
すると、あらかじめ「速い」と言い聞かせられて聴いても何じゃこりゃと言うほど速い。第一楽章ではこの速さでは、今まで聴いてきた9番の素晴らしさがスポイルされているのではないかと思える。波間に漂うような序盤の浮遊感が無い。録音も妙に楽器が近くて生々しく、それは普通なら長所となるはずが、スピーディーゆえにがちゃがちゃとした賑やかさを際立たせているようだ。もともとガチャガチャした第二楽章、第三楽章ではそうした違和感は忘れられるのだが、第三楽章終盤に至って、普通ならテンポが落ちるところが大して落ちたと感じられず、やっぱりこれは速いと思い知らされる。
終楽章は、ここまでに比べると落ち着くが、やはりちょっと速い。どうしてこんなに速くなったのか、何とも不思議な演奏だった。

コメント

人気の投稿