ポール・アダムの「ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密」。

「ヴァイオリン職人の探求と推理」は、イギリス人の作家が書いた、イタリアを舞台に老いたイタリア人のヴァイオリン職人とその友人の若い刑事が歴史的な名ヴァイオリンを巡る事件を解決する物語だった。ストーリーそのもののみならずストラディヴァリやグァルネリなどかつてイタリアで生まれた名ヴァイオリンに関する薀蓄、その来歴などを知るのも楽しい。
その続編が、先月発売された。「ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密」だ。
翻訳ミステリと言えば、シリーズものでもなかなか続きが出ないことが多い―ドン・ウィンズロウのニール・ケアリーものなど、どれほど待たされたことか―が、このシリーズでは前作が2014年5月の発売で、今作は11月と、非常に短いスパンで発行されている。すでに2004年から書かれているシリーズではあるが、翻訳期間を考えると、第一作の売れ行きに関わらず第二作を刊行する予定だったと想像される。ニッチなところに目をつけた作品で、爆発的に売れそうには無い気がするが、クラシックを聴く人なら好むだろう。もしかしてクラシックファン=海外ミステリファンというようなマーケティングデータでもあったのか、あるいは東京創元社編集者の目利きの達者さか、いずれにせよ佳い作品を紹介して刊行してもらえるのは読者としてとてもありがたいことだ。




主人公はクレモナ郊外に住むヴァイオリン職人ジャンニ、弦楽四重奏を嗜む仲間3人がいて、その内の1人が前作の被害者、もう1人は司祭で、残る1人が刑事グァスタフェステ。事件が起きてグァスタフェステが担当し、ジャンニに協力を仰いで真相に向かう。一種のバディものとも言えるだろうか。

さて、今作の冒頭はなかなかに映画的なものだ。警察による物々しい警備を従えた車が、ジャンニの工房へやってくるところから始まる。国際的なコンクールに優勝した新進気鋭のヴァイオリニスト、エフゲニー・イヴァノフが、ヴェテランではあるし腕は確かだが、現代を代表する名工というほどではなさそうなジャンニを訪ねてきたのだ。
しかし、警備はエフゲニーのためのものではない。彼がコンサートで弾く予定の、グァルネリ・デル・ジェスが作り、パガニーニが愛用し、今はジェノヴァ市が所有する「イル・カノーネ(またはカノン、大砲の意)」という類稀な名器を守ってきたのだった。大砲から異音が生じるとのことでジャンニは修理を依頼され、エフゲニーとその強烈なステージママと近づきになる。
招かれてコンサートに出向いたジャンニたちが会場で出会った人々の中には怪しげな者もいて、そのひとりが、翌日死体で発見される。捜査の過程で前作に続き歴史的なヴァイオリンやヴァイオリニスト―もちろんこの展開だからそれはパガニーニだ―に関わりのありそうな手がかりが出てきて、グァスタフェステの依頼でジャンニは謎解きに挑む。
パガニーニの曲、その録音に関する記述もあちこちに出てきて、数年ぶりに引っ張り出したルッジェーロ・リッチ演奏の「24のカプリース」を聴きながら読んだりと、音楽と一緒に楽しむとまた一興。解説では全く触れられていなかったが、シリーズの続編に期待したい。

コメント

人気の投稿