デニス・ラッセル・デイヴィスの春の祭典、管弦楽版と4手ピアノ版。

ストラヴィンスキーの春の祭典は、通常オーケストラによる演奏だが、ピアノ向けに編曲された版もある。タワレコの店頭ではファジル・サイのソロ録音をよく見かけるが、30分台の1曲のみの収録で物足りない。他にも録音はあるようだが見かけず、長く忘れていたのだが、この秋にデニス・ラッセル・デイヴィスの新譜の予告があり、これは管弦楽版と4手ピアノ版を両方納めたもので、これなら満足できそうだと、予約していた。発売は11月下旬で、すぐに届いていたが、あれこれ溜まっていたディスクを消化していてようやく聴くに至った。
管弦楽版は、デイヴィス指揮バーゼル交響楽団の演奏。4手ピアノ版は、デイヴィスと夫人の滑川真希さんによる演奏だ。デイヴィスの名は数年前にArte Novaレーベルから出たブルックナーの全曲録音や、ヤナーチェクの「利口な女狐の物語」で見知っているが、CDを買うのはこれが初めてだ。



まずは管弦楽版から。
最近の録音であるから音については文句無し。よく統制の取れた、なんと無く生真面目な印象を受ける演奏だ。そしてそれは、けしてこの破壊的としばしば表現される楽曲のエキセントリックなところをスポイルしない。あえて調和させず、あるいはあえて整えられていない各パートの音と音の鬩ぎ合いが、丁寧に丹念に演奏することで、俯瞰的というか客観的というか、克明に聴き取れる。
(イヤホンでミクロに聴くことによる受け止め方の変化もあるだろうが)時代に沿って解釈の幅が広がったり名演が蓄積されたりする中で指揮者、奏者のアプローチもこなれてきているのだろうし、録音技術も進歩しているのだろう。非常に満足度の高いものだ。

そして、4手ピアノ版。リズムを刻むようなところはピアノでもうまく再現できそうだが、例えば冒頭の土俗的なフレーズを木管が吹くあたりなどはスポイルされまいか、などと想像しつつ再生する。
冒頭、何だろう、何かに似ている様な。ラヴェルだろうか。と妙な感覚に襲われるが、乙女たちの踊りのリズムが刻まれ始めると、これは紛う事なき春の祭典だ。シンプルに削り取ることで骨格があらわになると言う例は、他の管弦楽曲のピアノ版にも言える事だが、この曲はうってつけだろう。メロディを奏でつつリズムを刻む打楽器としてのピアノなればこその、魅力がある。

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