バッハの無伴奏チェロ組曲。トルトゥリエとシュタルケルとフルニエと。

バッハの無伴奏チェロ組曲、全曲集を3種、立て続けに聴いていた。


まずピエール・フルニエの1960年のセッション録音。これは家内にプレゼントしたのだが、結局借りて聴くので、自分で買ったのと大してかわりが無い。紙ベースの簡易なパッケージのセットだ。
ゴリッとした音。ギコギコと言う擬音がしっくり来る。力強さを誇示しているわけではなくしなやかさも感じられるのだが、どちらかと言えば男性的で強い演奏だろう。しかしけして耳に痛いわけではないし、むしろ身を委ねると心地よい。懐の深さと言うべきか。
こうした傾向であるから、短調の曲よりは、大らかさが発揮される長調の曲の方が魅力が高まるが、勿論別に短調の出来が悪いわけでは無い。なるほどこれは、しばしば定番、ファーストチョイスとされるにふさわしい。


次にイギリスから取り寄せたポール・トルトゥリエの2回目の録音。
些か残響が気になる。ARTと言う、EMIの高音質化処理を施しているとのことだが、このレーベルにありがちな、薄皮一枚隔てて聴くような、曇って篭った感じが勿体無い。演奏以前に、音が気になって集中できないパターンだ。1960年の録音はかつてのEMI国内盤で、耳が慣れているせいもあるだろうが、そちらの方がまだ音に不満は感じないのだが。
特に、何故か録音レベルが低めで推移する前半が辛い。後半の曲ではこちらの耳が慣れたのか、音圧は上がってきて円熟味を増した滑らかな演奏が味わえるのだが。
ほかのリリースで、音の良いものがあるのだろうか、少し気になる。


そして、ヤーノシュ・シュタルケルの最後の録音だ。1992年の録音であるから、まず、音は良い。クリアで、残響も適度だ。そして、力強く、雄雄しいが、どこか朴訥な味わい。レガートでするっときれいに弾くのではなく、音を刻むような場面が耳に付く。それは、おやっとは思わせるが、不快ではなく、円熟味を増して、何と言うか、一周廻って初心に帰った素朴さのようなものがあるのだ。
演奏は素晴らしく、録音も、若干、録音レベルの設定を超えたのか、音が歪む箇所があるのは残念だが、総じて優秀で、これもリファレンスにふさわしいものだと納得した。

高名なチェリストの録音で、未聴のものは、カザルス、ロストロポーヴィチ、マ、ビルスマあたりに、シュタルケルの若い頃のものや、フルニエのライブなど、まだまだある。しかし、今回大御所の録音3種を聴いてもうこれで十分かなと思っている。いや、実は最初に聴いて、ずっとそればかりだったトルトゥリエの60年の録音こそ、巡って結局最高ではないかとうすうす感じてもいるのだが。

コメント

  1. コメント失礼します。個人的には’84〜’85年版のマイスキーの録音、’55年版のロストロポーヴィチの録音がオススメです。それぞれカザルスの録音に影響を受けながらも、自らの音を演奏中にも追求し続けているように私は聞こえます。マイスキーは濃密ながらもゆったりとした音を朗々と、ロストロポーヴィチは開放的な華やかな音を広々とした空間に放つスケールの大きさが特徴的です。
    乱筆失礼いたしました。

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