モーリス・ジャンドロンのバッハ、無伴奏チェロ組曲。

先日入手したアルトゥール・グリュミオーのバッハの無伴奏は、かつてPHILIPSレーベルのDUOシリーズで出ていたもので、いつの間にかPHILIPSレーベルが無くなってからはDECCAレーベルになっている。と言っても、PHILIPSのロゴがデッカのロゴに、ジャケットに用いられていたPHILIPSの臙脂色がDECCAのトリコロールの中の白に置き換えられているだけだ。シリーズ名も、DECCAには2枚組みバジェットシリーズとして「DOUBLE DECCA」というのがあるがそれは使わず、PHILIPS時代からの「DUO」のままになっている。
別にPHILIPSのファンと言うわけではなかったが昔はクラシックのレーベルとしては名門であったから、あの臙脂色が見られなくなったのは寂しいし、流通在庫で今もPHILIPSのままのディスクを見かけるとちと無常を感じるが、DECCAのロゴが付いていても中身の価値は変わらない。



そのDUOシリーズに、バッハの無伴奏チェロ組曲のセットもある。奏者はモーリス・ジャンドロン、フランスのチェリストだ。これまで演奏を聴いたことはないが、あちこちのレビューでは軽やかで陽性で、深刻さが足りないと言う評で、それは沈鬱なものや晦渋で退屈なものに高い精神性を見出したりすることの出来ない自分にとっては、喜ばしいことであると思えた。
フランスのチェロの大家と言うと、ピエール・フルニエ、そして、ポール・トルトゥリエが浮かぶが、フルニエが1906年、トルトゥリエが1914年、ジャンドロンが1920年の生まれで、3人ともパリ音楽院に学んでいる。フルニエはアンドレ・エッキング(エッカン)、トルトゥリエとジャンドロンはアンドレの従兄弟のジェラール・エッキングに師事したそうだから、皆同門と言ってよいだろう。
現代での名声はフルニエがとび抜けていてジャンドロンは後塵を拝しているが、バッハの無伴奏に関してはジャンドロン校訂の楽譜が広く知られているそうで、この曲に関しては大家と呼ぶべき名手のようだ。
録音はかなり残響過多で、礼拝堂かどこかで聴いているような気になる。だが、この深い響きを通して、演奏それ自体は飄々と陽性で、軽やかなものだと感じられる。安田ほど力は抜けていないが、トルトゥリエほど厳しくはない(トルトゥリエもそんなに厳しいわけではないが)と言う感じか。
ひと通り聴いただけではあるが、これもなかなかの名演ではないかと思える。

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