安田謙一郎のバッハ、無伴奏チェロ組曲。

コダーイ、チェレプニンに続いて、安田謙一郎さんのバッハを聴く。無伴奏チェロ組曲全曲集で、録音は1975年。懐かしい、DENONのPCM録音だ。
この曲に関しては長くトルトゥリエの古い方の録音しか聴いてきていないので、己の中に絶対的な評価基準など無い。楽譜を眺めながら聴くわけでもなし、チェロの技巧に明るいわけでもない。とどのつまり、快か不快か、心地よいかどうかだ。



第一曲のプレリュード、オヤッと思う。トルトゥリエは厳しいほどではないにせよ構えた、溜めた感がある。最近のピリオド派(?)は妙にきりきりとしてしかも速い。これはどちらでもなく、少し速目かもしれない。が、溜めているなと思えたのも一瞬で、その後はすらすらと、あまりに何気なく弾いているように聴こえた。素朴とさえ思えるものだ。
しかし、お気楽なわけでは無い。息遣い、運指の音が克明に刻まれており、弦の音の背後から、真摯な気配が立ち上っている。没我の果てに突き抜けた軽さと言うべきか。
その素軽さは、全曲を通じて心地よいものだが、特に第四曲(その中でも特にブーレからジーグ)あたりで映え、やや重い第五曲でも聴いていて苦しくなることが無い。
これは大したもので、70年代の日本の奏者がこれほどのものを残していたことは驚きでありまた素晴らしいことだと不明を恥じるとともに感じ入った。

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