ヴァレンティナ・リシッツァのラフマニノフ、ピアノ協奏曲全集。

たまたま梅田のタワレコでヴァレンティナ・リシッツァの全集録音が2013年のベストセラーとして紹介されているのを発見。最近ラフマニノフの交響曲を聴いていて、ちょうどそろそろピアノ協奏曲の方も何か聴いてみようかと思っていたところだし、使えるポイントもあったので早速入手した。
リシッツァの名前は、数年前から、妻の口から時々聞いていた。Youtubeで演奏を発表している超絶的な技巧派のピアニストで、Youtubeの動画が埋め込み出来ないからかニコニコ動画に転載され、「りっちゃん」というあだ名が付けられていると言う。その上妻には私が聴いているアラウやガヴリーロフのショパンのエチュードは彼女と比べれば遅いしタッチも荒いと言われてしまっていた。
とは言え私はYoutubeなどでクラシックをまじめに聴くのはどうもしっくりこないので、彼女の演奏をまともに聴くのはこれが初めてとなる。

伴奏は、ロンドン交響楽団、指揮者はマイケル・フランシスと言う人で、名前も演奏も初めて聴く。もともとロンドン響のコントラバス奏者で、2006年にツアー中のリハーサルで急遽タコ4を振って才能を見出され、2007年にはゲルギエフ急病の代役で指揮台に経ち、その後もプレヴィンの代役など勤めつつキャリアを積んできたそうだ。2012年からは、広上淳一さんでお馴染みのノールショッピング交響楽団の主席指揮者に就任している。



ピアノ協奏曲4曲と、パガニーニの主題による変奏曲のセットから、まずは変奏曲、続いて第1番を聴く。第一印象として、兎に角スピード感がすごい。高いテンションで正確に音を詰め込んでいく。小節に音符が詰め込まれていくのが目に見えるようだ。オケがそれに応えて切れ味良く走る。
第2番も冒頭から少し速いか。ガヴリーロフを思い出す。多年に渡り、燻し銀とでも言うべきレーゼルとザンデルリング&ベルリン響に慣れているせいか、違和感を感じてしまう。第3番はさらにそれが強まるが、第4番に至って、目を開かされた。
ラフマニノフらしい美しい旋律は余り目立たず、これまであまりよいと思ったことがなかったこの曲が、生き生きとした躍動感溢れる佳品であったとは。特に第二楽章の冒頭からメロウでジャジーなピアノとオケの絡み合うあたりなど、ラフマニノフが自演録音まで残している“現代”の人であったことを思い出させてくれる。余り馴染みの無い曲ゆえに演奏の目覚しさがストレートに訴えて来たと言う事か。
驚いて、家のPCで彼女の動画を検索した。ピアノの技術については明るくないので語れないが、ただ細かくひらひらと掌を動かしているだけに見えて、正確に音が生み出されていく光景は圧巻だった。リストの「ラ・カンパネラ」で見せる超絶技巧は凄まじいものだった。しかしそれよりも驚かされたのは、何かの演奏会のアンコールで「エリーゼのために」を恐ろしいほど優しく軽やかなタッチで、情感深く奏でる光景だった。ただ速い、正確と言うだけではなく、速くて正確だからこそ到達できる表現の境地があるのではないか。そう思わされた。

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