ロバート・A.ハインラインの「夏への扉」。

中学生ぐらいからSFを読み始めたが、筒井康隆さんをはじめ日本の作品の方に進んで行ったので、海外ものは、古典的な名作すら殆ど読んでいない。特に切欠があったわけではないし、いまさらあれもこれもと言う気はないものの、ふと、いくつかの名作とされるものは読んでおきたくなった。とはいえ、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」や「火星人ゴーホーム」など、過去に手にしても全く読み進められなかった覚えがあるので、すぐに挫折するかもしれない。探偵小説は翻訳ものばかり読むのに、SFは翻訳ものが苦手と言うのは何なんだろう。



手始めに、猫好きへのおすすめ本としても名前を上げられることのある、ロバート・A.ハインラインの「夏への扉」を選んだ。
主人公は家事を自動化する機械、ロボットを設計開発する発明家と言うか技術者なのだが、婚約者に裏切られ自分の会社を乗っ取られ、現実に打ちのめされて30年の冷凍睡眠の契約をし、紆余曲折あるが結局1970年から2000年へ。
作中で描かれる2000年の世界は、衣類など珍妙なものになっているようだが思ったほど突飛ではなく、リアリティのある描かれ方だ。中でも印象的なのは「言葉」の変化で、これは流石に作家らしい鋭い予測だと感じた。
また、FAの進化により、例えばスクラップ工場では人間は監視をしているだけという描写も、慧眼と言えるだろう。一方で、30年前に主人公が生み出し、あるいは構想していたロボットが実用化されているわけだが、これは2014年の現実の方が遅れている。

さて、主人公が乗っ取られた会社は、さぞ繁栄し、彼を裏切った婚約者と共同経営者は大金持ちになっているだろうと思うとさにあらず。しかも彼の頭の中にしか無かった製品まで形になっているなど、不可解なことが多い。
ネタバレになるが主人公はその後タイムトラベルを行い1970年に戻り、また2001年にやって来て、その結果が主人公が目覚めた2000年の世界だったことが、やがてわかる。
これによりタイムパラドックスの問題が生じることは避けられない気がするし、それを解決(?)する手っ取り早い手段であろう並行世界の理屈も作中で触れられるが、ちょっと投げっぱなしな感じは残った。
とは言え、結構悲惨な境遇の主人公が意外なほど前向きだったり運も良かったり、彼を助ける弁護士夫婦はヌーディストだったり、全編にそこはかとない明るさとユーモアが漂っていて、頭をやわらかくして楽しめば、なるほど古典的名作なのだろうと思える。ただし、猫好きに薦められる、と言われるほどには猫は活躍しない点、注意が必要か。

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