トレヴェニアンの「夢果つる街」。

トレヴェニアンの作品は余り読んでいない。代表作「シブミ」と、「バスク、真夏の死」だけだ。
「シブミ」は欧米では緊張感に満ちた、かつユニークなスパイアクションとして評価されているのだろう。しかし日本人にとっては、所謂「とんでも本」の一種と看做すこともできる珍品だ。また、「バスク、真夏の死」は恋愛サスペンスの傑作と評価されているようだが、自分にはなんだかもどかしいばかりの話だった。
カナダを舞台にした警察小説だと言う「夢果つる街」のことは以前から気になっていたものの、かようにトレヴェニアン体験にはあまり良い思い出が無いから手を出せずにいたのだが、キース・トムスンなど予約を入れている本を待っているタイミングで丁度読むべきものが尽き、Bluetoothのアダプタなど取り寄せるのに合わせて注文してみた。



主人公はモントリオール市警の警部補、ラポワント。「ザ・メイン」と呼ばれる地区を(自主的に勝手に?)受け持ち、警部補でありながら毎日自分の足で縄張りを歩き回り、治安を維持している。年齢は50代で、若い頃に妻を失ってから独身を通す。過去に犯罪者に撃たれて死に掛けたことがあり、今も健康に不安を抱えているが、勇敢でタフで、表彰歴もあり、現場の警官たちからは尊敬を受けている。一方、管理職からは厄介者扱いされてもいるが。
何となく、フロスト警部を思い出す。フロストから、滑稽さを取り除き、悲哀を割り増ししたような男だ。そして、移民や労働者階級の吹き溜まりであるザ・メインと言う街の物悲しさが、物語を一層薄暗いものにする。しかもシケた町の話だから、事件は起こるが、たいした裏があるわけでもなく、名推理やどんでん返しも無い。ただただ、人生の晩年に差し掛かった、貧しく薄汚れた街の守護者を、過剰に美化もせずじっくりと、しかし骨太に描いていく。しかしそれが素晴らしい。これは傑作だ。

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