スティーヴ・ハミルトンの「解錠師」。

スティーヴ・ハミルトンの「解錠師」を取り寄せた。2011年暮れに、ハヤカワ・ポケット・ミステリで刊行され、12年の暮れに文庫化されたものだ。大体が、何かのきっかけで好きになった作家を追いかける方に夢中で、広げようと言う気が余り無い。その上、同じ本を何度か読む性質なので、よほど読むものに困って飢えている時位しか、未知の作家の作品に手を伸ばすことが無いのだが、ネット上での好意的なレビューと、まとめ買いのキャンペーンにうまくのせられて、注文するに至った。



主人公マイクルは刑務所に服役しているようで、その一人称により、過去が語られる。語り口は当初些か読みづらく、章毎に時間軸を移動させることも相俟って、すぐには物語に入って行けなかった。
しかしそれも束の間、一往復半ほどで、作品世界に引き込まれ、マイクルに関する幾つかの事実が解き明かされていくのを追いかけることになる。
まず彼は、幼年期の、なかなか明かされない出来事により言葉を失っている。
長じて、ふとした切欠で錠前を破ることに喜びを覚え、成り行きでその技術を向上させて行く。
その結果、いっぱしの錠前破りとなって、刑務所に入るようなことをしでかすに至る。
犯罪小説、あるいはピカレスクの一種なのだろうが、主人公の言動には若さがもたらす清涼感があり、しかも結果的に現在は服役していることもあって、そういったジャンルよりは「青春小説」としておいた方がふさわしいかもしれない。
しかし一方、錠を開ける場面での表現、心理描写のリアリティが作品の質を大きく高めているのも確かであり、スリリングなクライム・アクションとしても楽しめる。
ただ、クライマックスは急ぎすぎと言うか、人生の転機なんて呆気ないものなので、むしろこの方が小説としての出来は良くなっているのかもしれないが、もう少し分量があっても良かったように感じた。

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