ドン・ウインズロウの「キング・オブ・クール」。

ドン・ウインズロウの新刊が8月に出ていたことに気付いていなかった。「野蛮なやつら」の前日譚で、邦題は「キング・オブ・クール」。「野蛮なやつら」は面白かったが、展開が読みやすくウインズロウ作品としては平均以下と評価せざるを得なかった。今作はどうだろう。



「野蛮なやつら」が本国で2010年発表。今作は12年発表。前日譚を書くに至った経緯は訳者あとがきに書かれている。キャラクター造形など一作で終わらせるにはもったいない要素があり、しかし続編を書くわけに行かない以上、過去に遡るのは唯一の手段だ。
物語は前作同様にシンプルだが、主人公3人組の現在と、その親世代の過去、そこに関わる麻薬組織、裏社会、警察、麻薬取締局の連中が入れ替わり立ち代り現れ、時間を超えて場面が小刻みに転換していくため、しばらくは何がどう繋がっているのか腑に落ちないが、背景が飲み込めはじめると一気に作品世界に引きずり込まれる。このあたりの組み立ての上手さ、緩急、推進力、流石にウィンズロウだ。
また、これも訳者あとがきにあるが、他のウィンズロウ作品からの客演(と言ってもカメオ出演程度だが)もあり、年代的に「犬の力」で描かれている期間とオーバーラップもし、作品世界同士が繋がっている。ウィンズロウのカリフォルニアを舞台とする麻薬がらみの作品を全て時系列で整理してみると、さらに面白いかもしれない。
ただ、あくまで前作のスピンアウト的なものであり、客演などお遊び的な要素もあって、ウィンズロウのファン以外には余り面白くないだろうと思う。

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