ポール・ギャリコの「シャボン玉ピストル大騒動」。

ポール・ギャリコと言えば、カンガルーのボクサー「マチルダ」や猿の「われらが英雄スクラッフィ」、そして「ジェニイ」「トマシーナ」ら愛すべき猫達など、動物を描いた作品でおなじみだが、未読の作品「シャボン玉ピストル大騒動」が創元推理文庫から刊行されていたので注文した。
ずいぶん昔に単行本が出たきりだったのを、新訳で文庫で発売したものだそうだ。



原題がカッコイイ。「The Boy Who Invented the Bubble Gun」。主人公ジュリアン・ウェストは9歳半の少年で、シャボン玉を発生させるピストル型の道具と言うかおもちゃを設計し、実際に模型も作ってしまうほどの独創性と器用さに富み、しかし吃音で、また、父親から認められぬ不充足を抱えている。
自信の発明を父に認められず、見返すべく特許を取ってやろうと、西海岸のサンディエゴから首都ワシントンへと向かう。その手段として選んだのが長距離バスで、その中で出会う人、出来事が、映画のようにさっさと場面を切り替えながら、テンポよく、そしてどこかユーモラスに描かれて行く(どうも、この愛すべき本に関しては、ネタバレをすべきではないように思えるので詳細は書かずにおく)。
この旅でジュリアンは様々なものを得て、また、失う。中でも彼にとって最も素晴らしく思えたであろうものを、旅の中で得て、結局失ってしまう。その痛手は大きく、こちらまで滅入ってしまうほどだ。しかし、「ジェニイ」でも「トマシーナ」でも「マチルダ」でも、いつもただのハッピーエンドにはならず、そこはかとない苦味や痛みが残るのが、ギャリコらしさではなかろうか。それは、人生とはそのようなものであるからで、得ては失い、失ってはまた何かを得る過程で人は成長して行くものなのだ。
ただし、ジュリアンの物語は、そのまま暗くは終わらない。そこにも、ギャリコらしい暖かな視線が感じられて、読後感がやさしいものになる。

コメント

人気の投稿