字幕で「荒野の七人」を観たら、吹き替えの方が恋しくなってしまった。

ゴールデンウィークは家内が不在の間留守番をしたり、その後は風邪を引いて寝てばかり、で、録画してあった映画を観たりしてだらだらと過ごした。

ジョン・スタージェス監督の「荒野の七人」は、黒澤明監督の「七人の侍」のリメイクであることは今さら言うまでもないことだが、私のように先に「荒野の七人」を見てしまい、オリジナルよりもリメイクの方に愛着を持ってしまうことも、世の中にはままあるのではないだろうか。録画した「荒野の七人」を観て、ふと、そんなことを思った。

「荒野の七人」の方は、子どもの頃に吹き替えのTV放映を観て、それも何度か観て、昨年あたりにやはり吹き替えをHDDレコーダーに撮りこんで何度か繰り返し見て、そのデータを外付けHDDに移したらそれがうまいこと認識されなくなったので、つい先日字幕版が放映されていたのをまた録画した。残念ながら劇場では観ていないのだが、何度観たか数えられないほどだ。
一方、「七人の侍」は、いつだったかはっきりしないが劇場で一度、それと、某大学の学園祭で階段教室で上映されたのを一度観ている。TVでも一回は観ただろうか。
圧倒的に「荒野の七人」の方が馴染みがあるので、こればかりはどうしようもない。

ところが、字幕で「荒野の七人」を観ながら、どうにも満足できない。どうやら、少なくともこの作品においては吹き替えの方が自分にとってスタンダードになってしまっているらしいのだ(2013年春にスターチャンネルで放映された字幕には、明らかな誤りがあるのでついでにメモしておく。酒場でクリスと農民たちがガンマンを品定めしている場面、顔に酷い疵のある男が入ってくる。農民のひとりが、その顔を見て「強そうだべ」と言うが、もう一人の農民が、「うんにゃ、あの疵をつけた相手を探すんだべ」とたしなめる。それをクリスが「わかってきたようだな」と褒める。いい場面だ。しかしここで何故か、「うんにゃ、あの疵をつけた相手を探すんだべ」と言う台詞の字幕が、「頼りになりそうだ」となってしまっている。これはいくらなんでも駄目だろう。字幕翻訳者のクレジットが出ないのだが、まさか「字幕の幽鬼」の仕業ではあるまいな)。

昔の民放では、洋画を吹き替えで放映する頻度は今よりもずっと多かった。
TBS系列では、荻昌弘さんの解説による「月曜ロードショー」。
日テレ系列では、今や「シベリア超特急」シリーズの監督としてカルト的な人気者になってしまった水野晴朗さんの「水曜ロードショー」(後に「金曜」に)。
朝日は淀川長治さんの「日曜洋画劇場」。
テレビ東京系の「木曜洋画劇場」は長じるまで無縁だった。
フジ系列は「ゴールデン洋画劇場」だが、これはネットワークの関係か、子どもの頃は観る機会がなかった。そして何故か、フジ系列の岡山放送で朝日系列の「土曜映画劇場」がオンエアされていて、この番組は1時間30分と短いうえ、他の番組とは作品の質も異なっていた。「必殺ドラゴン 鉄の爪」や「地獄から来た女ドラゴン」、「激突!ドラゴン 稲妻の対決」は、この枠で観たように思う。
なお、「必殺ドラゴン 鉄の爪」の方は、ブルース・リーの後継者とか、雑誌などでは弟子とも言われていたブルース・リャン主演、壮絶なアクションが印象に残る作品だった。この作品の鉄の爪とか、「地獄から来た女ドラゴン」で敵の手下が手斧振り回して襲ってくるのとか、本当に危なっかしくて怖くてひやひやしながら観ていたのを思い出す。一方で「激突!ドラゴン 稲妻の対決」は、主役が3人兄弟なのだが、顔つきどころか肌の色も違い、子どもが見てもこいつら国籍からして違うだろというぐらい似ても似つかず、アクションももっさりしていて興趣をそがれ、集中してみることが出来なかった。
すぐにカンフー映画に逸れてしまうのは悪い癖だが、要するに、兎に角、昔はCATVやCSと契約せずとも民放で洋画を見る機会が沢山あり、しかもそれは皆吹き替えであったから、それに慣れて、人によりあるいは作品により、吹き替えの方がしっくり来ると言うこともあるのではないか、と思ったわけだ。例えばジャッキー・チェンの声が常に石丸博也さんの声で再生される人とか、結構多いはずだ。



「荒野の七人」に戻って、この作品の素晴しさと言うのは一体どこから来るのだろうと考えると、カラーで雄大な映像、エルマー・バーンスタインによるテーマ曲、色々あるだろうが、何より、それぞれにキャラの立った人物設定だろうか。しかも主要キャストのうちの何人かは大スターになっているから、映画やCMで触れる機会も多く、なおの事親しみが持てた。
ワイルドだが子どもにフレンドリーな、チャールズ・ブロンソン演じるオライリー。気障な雰囲気がナポレオン・ソロにも通じるロバート・ボーンのリー。ブリット役のジェームズ・コバーンは、ブルース・リーに入門したと言う求道者的なエピソードが役柄にオーバーラップする。
そして今、歳を経て観ると、裏においしい儲け話があると勘繰り続けて死んで行くブラッド・デクスター演じるハリーの存在が、非常にいいアクセントになっていることに気がつく。友情や正義感だけで生きていけるわけでなく、ガンマンも農民も山賊もそれぞれに思惑や信条があって動いている。ハリーは己の勘に賭け、その結果死んで行ったのだ。もし生き延びて儲け話が本当になかったことを知っても、あっけらかんと次の儲け話を探して旅立つか、うまい話にありつくまでクリスにまとわりついただろう。そんな彼の死は、どこか清々しくさえ感じられる。

こうして記事を書きつつ思い出しているシーンの中で、やっぱりハリーの声は、森山周一郎さんの吹き替えで再生されている。リーの声は矢島正明(「わんぱくフリッパー」のお父さんでもある)さんなのだ。これはどうしたって、字幕では満たされないはずだ。
さて、どうしたものかと思って調べてみると、どうやらブルーレイディスクには昔のままの吹き替え音声が収録されているらしい。国内盤のDVDを発売する際に、TV放映時にカットされた部分の吹き替えを収録し補完したとのことで、これはもう、買うしかないのだろう。

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