ショウ・ブラザース製作、岳華主演の水滸伝映画「林冲夜奔」。

先週末は春の嵐だとかで家から出ないようにしていた。幸い、家の辺りは予想ほどには荒れなかったが、引きこもってYoutubeでショウ・ブラザーズの古い映画を漁っていた。
その中の一本、「林冲夜奔」は、タイトルから分かるとおり、水滸伝の主要キャラクターである林冲を主人公に据えた作品だ。ショウブラ作品では「水滸伝」とその続編を観ており、その他、水滸伝に関連するものとして、この作品と、ティ・ロン主演の「武松」があることまではチェックできていたのだが、未見だった。
1972年公開。主役は「水滸伝」2作でも林冲を演じていた岳華(ンゴッ・ワー)。品のある二枚目で、如何にも林冲らしい良い役者だ。武侠映画の古典的傑作として名高い「大酔侠」では、実質的な主役の酔猫を演じている。
なお、残念ながら、日本ではパッケージソフト化はされていないようだ。



以下、備忘録であるからネタバレを気にせず記す。ただし、全く理解できない広東語版を、英語字幕でどうにか追いかけて視聴しているから、誤りがあるかもしれない。

冒頭、騎馬の林冲が自宅に戻る。愛妻との睦まじいやりとり、そして出かけることに。
場面変わって大相国寺の菜園、ファン・メイサン演じる魯智深が居眠りをしているところへ、ごろつき(のように見えるが、後々の展開からそれほどたちの悪い連中ではない様子)どもが桃を盗みにやってくる。
連中が門を開けていたため寺に向かう人々が通り抜けようとし、ざわめきで目が覚めた魯智深。桃泥棒たちを追い掛け回して懲らしめるが、そこへ、やはりお参りに来た林冲夫妻が出くわす。桃泥棒たちから「林教頭、助けてください」と頼られたかと思えば、いきなり、兄貴、と魯智深に駆け寄る林冲。本来ならこの場面での出会いを経て知己となり兄弟となるのだが、以前から義兄弟だったと言う設定のようだ。
旧交を温めている内に、付き添いの女中が大変だとやってくる。高俅の義理の息子、色ボケの高衙内が廟の中で林冲の妻に絡んでいるのだ。助けに入る林冲、高衙内を止めるが、上官の息子にはそれ以上は手が出せない(原作ではここで林冲は高衙内の顔、素性を知らないのだが、改変されている)。魯智深が駆けつけてやってしまえと言うが、立場上出来ないと臍をかむ林冲。長い付き合いで兄弟分である陸謙が出てきてその場をとりなし、散会する。
魯智深から、その腕前を生かして軍を辞め、他の職に就けと言われるも、軍の仲間たちのことを思うとそうは出来ないと悩む林冲、一方陸謙と高衙内は高俅の元に帰り、林冲を罠に嵌める算段をする。
刀売りのエピソードは省かれ、高俅が林冲の持つ刀を見たがっているから、とのことで誘き出され、帯刀の禁じられた白虎節堂に入ったかどで捕われ、流罪になる。
護送役は董澄と薛覇、道中はかなり悪辣で、柴進との出会いが省略されているから、兎に角酷い目に遭い続け、ようやく魯智深に助けられると、すぐに滄州で入牢する。ちなみに董澄役は「ドラゴンへの道」でおじさんを演じていた黄宗迅で、申し訳ないが少し小ズルイ感じの悪役が良く似合う。
その後林冲は原作の通り秣場の番となり、何故か前任者らしき老人と寝起きをともにしたりして、しかもそこに董澄が冬物の着物を届けに来たりと少し奇妙なアレンジが施されている。そしてある夜、酒を買いに出かけた先の居酒屋で和む家族連れの姿に、いつか開封府に戻って再び団欒をと夢見る林冲。その帰途で山神廟に祈るなど、はかない希望を抱いている姿が痛ましい。そして、そのあとなぜか素直に秣場に帰ってしまい、老人と酒を酌み交わし、寝入ったところに陸謙たちによって火をつけられる。
完全に火が回ってから、老人を助けつつ必死で外に飛び出すと、人の気配が近づく。物陰に隠れると、林冲が死んだものと思い込んでいる陸謙たちが通り過ぎる。全てを知り、先回りをして山神廟に潜む林冲。そこへ立ち寄る陸謙一行、林冲の槍(先端がうねっている様に見える気もするので蛇矛だろうと思っていたが、クライマックスでアップになったのを見ると普通の槍だった)の前に皆殺しとなる。
所変わって開封府、高俅の屋敷、董澄が作戦失敗の報告に上がる。一方高衙内は林夫人をモノにすべく、おそらくは婦人の実家と思われる家を襲う。手下どもにより一族郎党(桃を盗みに来ていた連中も何故かここにいる)皆殺し、夫人は高衙内に相対し、ついに自ら短刀で顔に疵をつける。しかし、顔は諦めても身体は俺のものだとなおも迫る高衙内に抗しきれず、ついに夫人は自害する。
そこに現れた林冲。妻の亡骸と対面し怒り爆発、手下どもを皆殺し。一人になった高衙内が隠れているところに、何故だか魯智深も駆けつける。高衙内の気配を察し、潜んでいる藁の束ごと槍で跳ね上げ突き殺す林冲。魯智深もさらにひと突き。
そして、ついに林冲は高俅の元へ。護衛の兵隊たちに林冲を捉えよと命ずる高俅だが、兵隊たちは動かず、命令には従えないとまで言い出す。仲間たちのために職を辞することは出来ないというかつての林冲の言葉が、ここで生きてくる。この時林冲の向かって左にいる兵卒が、ディーン・セキだと思うのだが、どうだろう。このあとは、高俅が林冲に敵うはずもなく、記すまでも無い展開で終わる。

水滸伝好きでなければいまひとつストーリーが飲み込めないだろうし、一方で原作ファンからすれば妙な改変が気になるだろうが、林冲と言う(原作中で最後に追加された人物だろうと推測され、一人だけ他の登場人物よりも現代的な悲哀を帯びている)キャラクターの悲劇としては、よく描けていると思う。

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