ミシェル・ヨーの「レイン・オブ・アサシン」。

ミシェル・ヨーはシンガポール出身、香港映画で世に出た女優さんだ。主演作としては詠春拳の始祖とされる女性を描いた「詠春」や古龍脚本の往年のショウブラザース作品のリメイクである「新流星蝴蝶劍」、脇ではジェット・リーの「大地無限」、そしてあの高名な「グリーン・デスティニー」など観てきたが、どの作品でも非常によく、確りと動ける人だ。「グリーン・デスティニー」なんかだと殺陣が緩慢で、せっかくの才能が無駄遣いと言いたいぐらいだった。
今回久々に彼女の主演作「レイン・オブ・アサシン」と言う中国映画を見たが、これはミシェル・ヨーの魅力、それも年齢を重ねてのアクション以外の演技の円熟も含めて、彼女の才能がしっかりと引き出された作品だった。

監督はジョン・ウー。「男たちの挽歌」は素晴らしかった、ハリウッドでの作品は普通だった。「レッド・クリフ」2作は期待していただけにあまりのステレオタイプな設定にずっこけて劇場へ行かず、TV放映でも余りに馬鹿馬鹿しくて途中で見ることを放棄した。が、この作品は楽しめた。
相手役は韓国の俳優だそうでチョン・ウソンという人。よく知らないが、なかなか良かった。他も、台湾で人気のあるショーン・ユーやバービー・スーと言った人たちが出ているのだが、余りよく知らないので何とも言えない。

邦題は英題をカタカナ表記したもののようで、原題は「剣雨」。ヨー演じるヒロインの剣の凄まじさを表した言葉であり、また作中「雨」が効果的に使われてもいて、そこはかとない情緒もあり、この原題のままで公開すれば良いのにと思うのだが、仕方ない。なお、邦題・英題の「レイン」は「reign」であって「rain」ではない。



明の時代、達磨大師の遺骸を手に入れたものが武術界を制するという伝説が有り、その上半分を持つ宰相張が「黒石」と言う暗殺者集団に襲われる。黒石のメンバーは首領の転輪王、手品使いの彩戯師、全身のいたるところから針を射出する暗器使いの雷彬、そして碧水剣と言う剣法を身につけた女剣士の細雨。
張とその息子は殺され、ミイラ化した達磨の遺骸の上半身は細雨が一人で持ち去り、行方をくらましてしまう。
少林僧陸竹との出会いと別れを経て細雨は顔を変え、名を曾静と変えて都に移り住み、やがて貧しく頼りないが優しい阿生と言う男と結婚する。
一方、転輪王は細雨と達磨の遺骸の行方を追い続けており、また、黒石の帳簿を管理している油商人が何者かに殺されて帳簿が奪われる。
達磨の遺骸の片方、下半身は、都の両替商であり富豪である大鯨が持っていると噂され、その情報を得た連中が両替商に押し入る。遺骸は見つからず、強盗団は目撃者を皆殺しにしようとするが、その中に静と阿生がおり、静は阿生を守るため強盗どもを倒してしまう。
黒石は役人をも裏で操っているらしく、強盗の首領は転輪王のもとに引き出され、どうやって倒されたのか、戦いの手筋を説明させられる。それで転輪王には相手が細雨であることがわかり、間もなく居所を突き止められてしまう。
夫の身と今の暮らしを守るため、静は達磨の上半身を引き渡し、下半身を入手する手伝いも約束させられるが、やはり遺骸を狙う崆峒派(だと思う。字幕は「コンドン派」だったが)が絡んできたり、長年こきつかわれてきたことに嫌気が差した彩戯師が転輪王を裏切ったり、家庭を大切にしたいと願う雷彬が裏切るか否か逡巡したり、細雨の後釜としてスカウトされた新しい女剣士の綻青が異常なまでに細雨に敵意を燃やしたり、敵味方入り乱れての戦いへ。
その後は阿生の意外な正体(本当はある程度予想がつくけれど、意外と言うことにしておこう)が判明し、そしてひっくり返し、もう一度ひっくり返してクライマックスへ。
武侠映画、武侠小説の常道である、それを持てば武林を制することが出来る“お宝”の争奪戦に、ちょっと変わった動機付けや、主要登場人物個々の小市民的な背景など加えて、ひとひねりしてある点は良い。ただ、ちょっとやりすぎなのだろうか、それがギャグっぽく見えてしまうところもあって、終盤の緊張感が緩んでしまうのが残念だ。それでもその中にあって終始、ヨーは素晴らしかったが。

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