通勤やら出張の供に。「愛のひだりがわ」「夢の木坂分岐点」。

スマートフォンを使うようになって、本が無くとも何となくWebを眺めたりして通勤時間を過ごすことが多くなった。しかし、久々に東京出張があったこともあり、文庫を用意して読んだ。

新しいものを二冊。筒井康隆さんの「愛のひだりがわ」と、「夢の木坂分岐点」。中学までは筒井作品をかなり読んでいたが、その後興味が他に広がり、それほど熱心な読者ではなくなって随分経つ。それでも時々文庫を買って読んではいるが、ファンとかツツイスト(この言葉は昭和50年代にはすでにあったが、今でも通じるのだろうか)と名乗れるには程遠い。

 

「愛のひだりがわ」はジュヴェナイルで、昔から筒井さんには「時をかける少女」をはじめ、「ミラーマンの時間」など、ジュヴェナイルの名作がある。ジュヴェナイルではないが「旅のラゴス」なんてのもついぞ発狂や崩壊の訪れぬ、しかし面白くまとめられた物語だった。エログロ狂気の渦巻く作品や実験的なもののみならずこのような至極ストレートな「物語」が出てくるところにこのお人の作家としての並々ならぬ力量が滲み出ている。
それにしても、ジュヴェナイルと言えども、愚昧な存在や忌むべきものを徹底的にこき下ろす辛辣さは全く失われていないので、子ども向きと侮って読むと衝撃が大きいだろう。

「夢の木坂分岐点」の方は、存在は知りつつ長く読まずにいたものだ。冒頭からすぐに作品世界に引き込まれてしまう感覚があり、警報の様なものが頭の中で鳴る。これは迂闊に読み進めてはならないものだという、手ごたえの様なものが生じる。で、これはメモでも取りながら読み進めねばならない、冒頭に立ち戻らねばならないかもしれないと思いつつ進んでいたら、途中である程度説明してくれているような部分が出てきて、ああ、そういうことかとほっとしつつ、それでも油断せずに読み進めて読了した。300ページほどだが分量以上の読み応えがある作品で、何度か読み返す必要ありと感じた。

前にも書いたと思うが、昔愛読した筒井作品は、全て亡母が勝手に処分して残っていない。文庫ばかりだったから資産としての被害は無いが、最も好きだった「俗物図鑑」を筆頭に、「馬の首風雲録」とか「四十八億の妄想」「東海道戦争」「脱走と追跡のサンバ」などなど、今でも刊行されているのやらと思うとむかっ腹が立つ。
そう言えば、「アルファルファ作戦」に収録されている、タイトルを忘れたが、「ルピナス・キッド」という主人公が出てくる短編。あれも好きだった。泣ける話で。
それももう手元には無いんだけど。

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