ロス・マクドナルドあるいはポール・ニューマンの「動く標的」について。

我が家ではAUのTVサービスを契約し、いくつかの専門チャンネルを試聴してきたが、最近になって家内がSTARチャンネルと契約したものだから、今まで以上に映画を観る、録ることが多くなった。とは言えあれこれ録っても観るのは週末ぐらいなので、積み残しが発生してしまうのだが、その中に、ポール・ニューマン主演の「動く標的」があった。

ハードボイルド・ノヴェルの歴史において、ハメット、チャンドラーの次ぐらいに名前を挙げられるロス・マクドナルドの「動く標的(The Moving Target)」が原作で、この作品こそ、自分が中学生の頃、今から30数年前、最初に読んだハードボイルドだった。
主人公の私立探偵リュウ・アーチャーは、この作品では比較的能動的、まさに動く探偵だったが、年を経て現代のアメリカの悲劇を見つめる語り部の様なスタンスに移行して行く。作品としてはそうして深みを増していったわけだが、ハードボイルド・ノヴェルらしさは薄れていったと言ってもよいだろう。したがって、このシリーズからは「さむけ」や「人の死に行く道」など数作品を読んだものの、現在まで繰り返し愛読するには至っていない。ただ、チャンドラーやパーカーが描く騎士道精神溢れる探偵たちに馴染めなかった自分にとっては、マクドナルドがこの趣味の入り口だったからこそ今に続いているのだろうし、マット・スカダーシリーズの様などちらかと言えば辛気臭いものを好む下地は、マクドナルドによって作られたのではないかと言う気がしないでもない。

映画化に当たって、改変がある。まずはタイトル。「The Moving Target」ではなく、「Harper」となっている。そして主人公の名前が、リュウ・アーチャーからルー・ハーパーに。リュウとルーはカタカナ表記は異なるが、英語のスペルは同じだったと思う。姓は語感を残しつつ変えられ、タイトルにされているわけだが、それは当時のポール・ニューマンのヒット作(あの高名な「ハスラー」など)が皆題名が「H」で始まるものだったので、験を担いだのだと、昔何かで読んだ。
邦題をつけるに当たって、原作の邦題と合わせたのは大正解だろう。「動く標的」、この上なく素晴しいタイトルだ。



残念なことに原作の邦訳も映画のソフトも絶版、廃盤のようだ。験を担いだ効果か、映画は少なくともアメリカではヒットして、別の作品「魔のプール」を原作にパート2まで作られたのだが。HDDに録っておいたものが、貴重になるかも知れない。

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