ローレンス・ブロックの「すべては死にゆく」。

ローレンス・ブロックのマット・スカダーシリーズで、唯一文庫化されておらず買わずにいた「すべては死にゆく」が、当分文庫化されそうに無いのでハードカヴァーを取り寄せた。
自宅ではソファーでじっくり本を読んだりと言うことが何故かしっくり来ず、読書は通勤電車の行き帰りと言う習慣が身についている。故に嵩張るし重いしで持ち歩くのが面倒なためハードカヴァーを買うのはどうにも億劫なのだが、仕方が無い。



前作「死への祈り」でスカダーは犯罪者を裁くことが出来なかった。そしてその男が舞い戻ってきた。連続した2作品と言うよりは、ひとつの作品の前後編と捉えた方がしっくり来るかもしれない。
敵は、かつてまんまと逃げおおせたが、彼にとってそれは計画を潰されニューヨークから逃げ出さねばならなくなった屈辱の記憶であり、スカダーを殺すことで、同時にエレインを陵辱した上で殺すことでしか、この鬱憤は晴らせない。
そうした復讐の炎が強い余り、この天才的な犯罪者の行動を、ほんのわずかに狂わせるのだが、それが無ければ、この敵との戦いは未だ終わらなかっただろう。スカダーはセミリタイア状態で、TJは探偵見習いよりもデイトレードの方が忙しい。ダーキン刑事は退職して警察内部とのパイプも細くなってしまっている。探偵小説といっていいのかどうか、とさえ思えるほどに。
そんなスカダーだから彼自身が犯人を追い詰めようと大して活躍するわけでもないが、どうにかこうにか、多分に敵の側の自発的な動きによって物語のカタはつく。しかしカタはついても何より恐ろしいのは、あらためて描かれた犯人の異常性のみならず、奴の本当の名前もプロフィールも、最後まで誰にもわからないことだ。共同体と言うものが崩壊している現代の大都市において、私たちの身の回りにも、このような犯罪者が実在しているのではないか。そう思えてならない。

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