ローレンス・ブロックの「償いの報酬」。

ローレンス・ブロックのマット・スカダーもの、文庫新刊「償いの報酬」が発売された。前々作「死への祈り」が2001年、前作「すべては死にゆく」が2005年の作品で、そこでシリーズは終わったかのような気配があったが、6年を経て2011年に「償いの報酬」が発表され、割りと素早く、翻訳が出た。
「死への祈り」が不気味な余韻を残したまま終わり、「すべては死にゆく」がハードカヴァーで出たため文庫化を待っていたのだが、それが出ないまま、新作がいきなり文庫で登場したのには少し驚いた。が、まあ、仕方ない。「死への祈り」は追って読むとしよう。



と言うのも、今作は過去を振り返った作品で、時系列的に前作、前々作の影響を受けないのだ。
そしてこのことは、かつて「八百万の死にざま」という、これでシリーズが終わってもおかしくない展開を迎えた傑作のあと、「聖なる酒場の挽歌」が回想形式で書かれたことを思い出させる。前作からの6年のブランクも、終わらせるつもりであったのではないかと、想像させる。本当に終わらせるつもりだったかどうかはさておいて、少なくとも前作でひとつの節目を迎えたことは間違いあるまい(未読だが)。
そして、新しい展開(前作以後のスカダーの人生)を描くのではなく、一旦、過去に戻った。
物語は、ミック・バルーとの会話の中、スカダーの思い出話として語られる。スカダーが自らアル中であることを認め、ジム・フェイバーと言う助言者を得て、禁酒に努め始めたころ。少年期の、それほど親密ではなかった近所の子が、長じて犯罪者となり、またアル中となり、刑務所を出てAAに通っているところでスカダーと再開し、事件が起こる。
インターネットも携帯電話も無く、TJも出てこない。モリッシー兄弟の店はすでに無いが、アームストロングの店は元の場所に健在で、スカダーはジャン・キーンと付き合っており、禁酒一周年を迎えようとしている。これまでの作品で、深掘りされていなかった時期のスカダーを描いた、と言う感じだろうか。古典的なハードボイルドに仕上がっているような印象で、面白いが、ここ数年のシリーズのような、現代社会にはびこるそこはかとない異常性がもたらす不安感は無く、少し物足りないのも事実だ。

この後再び時系列に沿った新作を書くのか、この回想パターンで続けるのか、それとも今作がオマケのエピローグで、これでシリーズが終わると言う展開もありえなくは無いが。

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