S.J.ローザンの「シャンハイ・ムーン」。

S.J.ローザンのリディア・チン&ビル・スミスもの、最新邦訳の「この声が届く先」が非常にスピーディな展開でさくさくと読み終えてしまったため、10ヶ月ほど前に読んだばかりだったので再読せずにいた前作、「シャンハイ・ムーン」を読み直すことにした。



前々作が非常に重い作品で、作者にとってもひとつの頂点とも言うべきものであったため、この「シャンハイ・ムーン」刊行まで本国で7年も間が空いたと言う。変わろう、あるいは、変えようと言う意思が、第二次大戦中の事件に連なる歴史ミステリー的な、これまでに無い一風変わった仕立てに結実したのだろうか。
ビルは前作の痛手を引き摺って姿をくらましていると言う状況。ビルではない別の、リディアが時折組んで仕事をする探偵、ピラースキーから依頼を受ける。そして何かを掴んだらしいピラースキーが殺される。事件の背景には大戦中の上海で作られた伝説的な宝石「シャンハイ・ムーン」が見え隠れし、リディアは帰ってきたビルの助けを得ながら、捜査線上に浮かぶ関係者に当たるだけではなく、史料を遡り、研究者の講義を受け、歴史の生き証人の声を聴き、ピラースキー殺しの犯人と、真実へと近付いて行く。
本そのものも厚いのだが、それ以上に分厚いストーリーで満足感が高い。そして、最初に読んだときにも書いたと思うが、どうしても、こういう話では日本は良く描かれることが無く、読みながら居心地の悪さがある。しかしながら、それを意識しないでも済むほどに面白い。

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