必殺シリーズの最高傑作は「暗闇仕留人」。

沖雅也のことを書いたついでと言うわけではないが。
この盆休みは仕事があってまとまった休みにはならず、それ以前にそもそもどこかへ出かける予定も無かったので、休める日は家で、「暗闇仕留人」のDVDを観たりしていた。



「必殺」シリーズの中では、「暗闇仕留人」が最高。それに次ぐのが「新・必殺仕置人」、「必殺仕置人」だと思っている。以下、「仕置屋稼業」「仕業人」「からくり人・東海道五十三次殺し旅」あたりか。
仕置人2作には、藤田まことの中村主水と山崎努の念仏の鉄が配されている。加えて、一作目には沖雅也の棺桶の錠がいて、二作目には中村嘉葎雄の巳代松がいた。キャラクターのバランスとしては、若い熱血漢である錠がいた一作目の方がバランスが良いように思うが、二作目は設定が素晴らしく、伝説的かつ完璧な最終回があり、甲乙付けがたい。

それら以上に仕留人を評価するのは、シリーズそのものに疑問を投げかけるかのような設定と、絶妙な配役があればこそだ。
主役は石坂浩二、糸井貢と言う名(身分を隠すための変名だが)の、元蘭学者。高野長英の門下で、蛮社の獄に遭って名を変え妻と二人隠棲している。この人物造形がまず、完璧だ。石坂浩二以外に、誰が演じられただろうとさえ思える配役だ。
その仲間に、中村主水と、近藤洋介演じる村雨の大吉。
大吉役は、露口茂にオファーする予定で、断られて竜雷太、それも断られたという経緯があったそうだが、殺しに臨む時の鋭い眼光と、酔った時や房事での底抜けに砕けた表情との落差は、露口や竜では表現できなかった(技術的な問題だけでなく、持って生まれた容姿、声に拠るものも大きい)だろう。「江戸の旋風」で恐ろしく厳しい同心役を見事に演じていた近藤洋介だが、表情感情の振り幅の大きい大吉役は、それ以上に見事だったと思う。

本能に忠実で、享楽的で、「なぜ生きていくのか」という糸井の問いに、「食うために決まってる」と言い放つ大吉。生きるために食い、食うために殺しを引き受ける、といった筋道すらなく即答する単純さは清々しい。
一方で、人を殺す意味、誰かの復讐を肩代わりする意味、そうして殺した相手にも家族や思い人がいること、時には国家の行く末まで憂いつつ、糸井は常に意味を追い求め、プロとして淡々と仕事に徹することが出来ない。
彼らは階層と思想において互いのカウンターパートとして存在し、しかし金の為に人を殺める仕留人としては同じ穴の狢であり、対極にありながら一体として表裏を為している。

大吉と糸井のやりとりも興味深い。仕留人三人のパートナー同士が姉妹であるため、彼らは義兄弟でもあるのだが、義弟に当たる糸井に対し、大吉は時に「糸さん」と呼んだり、はたまた「貢」と呼んだりする。これは、複数の脚本家の間で設定が共有されていなかったためとされるが、ひとつのエピソードの中で両方の呼び方をする場面もあり、両人の造形を際立たせるための計算されたものだったのではないかとも思える。「糸さん」と呼ぶ時は、俗人である大吉が、知識層である糸井に敬意を表している。「貢」と呼び捨てにする時は、現実主義者として頭でっかちな学者崩れに苛立っている。
そして二人の間に、組織の末端にぶら下がり、家庭を持ち、どちら側にも偏ることの出来ない我々の代理人として、主水がいる。この作品では、野川由美子と津坂まさあき、中村家のせんとりつ、流行語になった大吉の愛人妙心尼の「なりませぬ」など、脇やコメディパートの充実ぶりも忘れてはならないが、何より主役三人の組み合わせが、シリーズ中でも際立ってバランスが良いと思うのだ。

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