S.J.ローザンの「この声が届く先」。

S.J.ローザンのリディア・チンとビル・スミスものの新刊が出た。長編の10作目だ。相変わらず文庫にしては目を瞠るような価格だが、読まないわけには行かない。このところ、シリーズ第一作から順に過去の作品を読み続け、8作目まで読み終えていたが、9作目を読んでからは余り時間が経っていないので飛ばし、この新作を読むことにした。
前作「シャンハイ・ムーン」の邦訳が発売されたのは未だ1年も経っていない2011年秋のことで、翻訳もののシリーズ作品がこれほど短い期間で出るのは珍しい様に感じるが、これまでの作品の解説や奥付を眺めてみると、それほどでもない。

チャイナタウン:1994(1997)
ピアノ・ソナタ:1995(1998)
新生の街:1996(2000)
どこよりも冷たいところ:1997(2002)
苦い祝宴:1998(2004)
春を待つ谷間で:1999(2005)
天を映す早瀬:2001(2006)
冬そして夜:2002(2008)
シャンハイ・ムーン:2009(2011)
この声が届く先:2010(2012)

だいたい本国で年1冊ペースで刊行され、翻訳も数年置いてはいても、1年から2年に1冊ペースで出ている。「冬そして夜」と「シャンハイ・ムーン」の間に本国で7年、翻訳でも3年のタイムラグがあったので、こんな印象を抱いてしまっているようだ。ドン・ウインズロウのニール・ケアリーものなんて、作者が断筆したのかと思うほど間が空いたものだが。
7年のタイムラグについては今作の解説に説明があるのでここでは触れまい。



このシリーズでは、男女二人の探偵が、一作ごとに主客を入れ替えながら活躍する。ニューヨークのチャイナタウンに住む中国人であるリディアは、中国人社会に関わりのある事件を、そうでない事件はアイルランド系のビルが主に手がける。前作はリディアの作品だったので、今作はビルの番だが、なんと、リディアが誘拐されるという話だ。
ローレンス・ブロックのマット・スカダーシリーズに、主人公の手で刑務所に入れられた犯罪者が出所して復讐に来る作品がある。ブロックに限らずこうした設定は珍しいものではないだろう。しかも舞台は同じニューヨークで、敵が異常者と言う点でもスカダーものと今作と、通じるものがある。
が、本作の面白さは、復讐をゲームと捉え、タイムリミットを定めて次々に難題を突きつけてくる犯人の異常性と、タイムリミットがある中ほぼノンストップで動き続ける疾走感、そして何より、非常に現代的な登場人物とゲームに挑む手段のリアリティにある。

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