S・J・ローザンの「冬そして夜」。

ローザンの邦訳8作目。主人公はビル・スミスに交代。
事件は高校のフットボールチームだけが名物と言う、郊外の小さな町で起きる。町にとってはチームが一番大事で、部員たちは町を支配している。その傍若無人振りも、それを許す町民も異常だが、日本でも、高校野球の有力校を舞台に同じ様な物語が書けるだろうと考えると、けして荒唐無稽ではなく、リアリティがある。さらに、そこに主人公であるビルの身内が絡んでいるという設定によって、深みと厚みがもたらされている。



物語は、家出をしたビルの甥がニューヨークで警察に捕まり、ビルが身請けに行くところから始まる。亡くなった娘に関する描写を除けば、ビルの親族が登場するのは初めてで、ついに、シリーズを通してなかなか明らかにされなかった、リディアも知らずにいたビルの過去が顕になる。
事件そのものも過去を引き摺っており、現在の事件と過去の事件の相似、ビルとビルの義弟であるスコットの対比、フットボール部員とそれ以外の生徒たちなどそれぞれの対比が描かれる。敵対するものへの怒りや憎しみや侮蔑、相互理解と言うことの困難さ、それに対する諦念など、様々な登場人物の諸々の感情を行間に滲ませながら、過去と現在と、両方の真実を突き止めて行く。今までの作品以上に切迫感があり、悲痛で、故に出来が良い。
加えて、親族が絡んでいるため血気に逸ってしまうビルをありのままに受け入れ、冷静にフォローする、健気で頼もしいリディアの姿も非常に魅力的だ。

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