S・J・ローザンの「春を待つ谷間で」。

ローザンのシリーズ6作目、ほのぼのとしたタイトルだが、なかなかハードな内容だ。
主人公は順番通りビルで、彼が冬場など時折訪れて過ごす山小屋のある、ニューヨーク州北部の田舎が舞台だ。



その土地は仕事や日常から逃れるための場所で、仕事を請けることには抵抗があったビルだが、依頼人の意外な素性など気を引かれる要素があって、盗まれた絵の行方を捜すことになる。そこに地元の唯一と言っていい大企業の主や犯罪常習者や、馴染みの酒場の主などが絡み、中盤からはリディアもやって来る。自然豊かなのどかな舞台だが、これまでの作品以上に銃声が響き、血が流れる。
だが、大抵の作品と同様、事件を複雑にしているのが、誰かが誰かを思いやるゆえであったりする、そうしたローザンらしい温かさは備えていて、ただの血なまぐさいアクションに終わらない。
それと、この作品でようやく、ビルが携帯電話を持つ。しかし、街中以外では電波状況が悪く、今作ではそれほど役に立たない。作者が、携帯電話を持つことでのビルとリディアの行動の変化をどう描くか、試行錯誤していたのかも知れない(と、勝手に推測する)。
刊行は1999年(邦訳初版は2005年)で、そのころ自分はどうしていただろうと考えると、今ひとつはっきりしないが、携帯電話は持っていたように思う。

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