S・J・ローザンの「チャイナ・タウン」。

S・J・ローザンの新作が6月末に発売される。予約しているのだが、しばらく間が空くので、この機にシリーズ全作品を読み直すことにした。



第一作「チャイナタウン」で、リディア・チンは颯爽と登場した。ニュー・ヨークのチャイナタウンに住む小柄だが機転が利き骨のある若い女性だ。パートタイムのパートナーであるビル・スミスとともに、チャイナタウンの美術館から、寄贈されたばかりの陶磁器が盗まれた事件に立ち向かう。
ニュー・ヨークを舞台にした探偵小説、ミステリーがどれほど多く書かれているか定かでないが、マット・スカダーシリーズ、パーネル・ホールのスタンリーもの、あの素晴らしいウインズロウの「ストリート・キッズ」(舞台は他の土地だが本拠地はニューヨーク)など、我が家の本棚にもかなりの数が並んでいる。そうした中で、チャイナタウンの中国人娘を主人公に据え、舞台を特殊なエリアに限定することは、個性を打ち出す策として効果的だったといえるだろう。
ただし、このシリーズは、そのような単なる奇策に留まるものではない。ビルとの関係の中で、あるいはリディアとその母との間で生じる民族や世代による様々な価値観のギャップ、行動様式の違いが丹念に描かれており、人物造形に深みがある。理解と共感を描きながら、常にどうしても埋められない溝も示唆され、それが物語の底流となっている。しかも、一作ごとに主人公を交替させ、白人であるビルを主人公とした作品においても、しっかりとした読み応えがある。アイデア勝負の一発屋ではなく、深く大きな力量を持っている。

コメント

人気の投稿