金庸の「侠客行」。

前に金庸作品ではどちらかと言えば愚直な主人公の作品の方が好ましく感じると書いた。「侠客行」の主人公、狗雑種の場合、人里離れた暮らしで物を知らないだけであり、郭靖や狄雲のように馬鹿正直、愚鈍なわけではないのだが、巻き込まれ型の展開が暗くならないのは狗雑種の純朴な人柄に因るところが大きい。



凄まじい武術の達人謝煙客がかつて恩を受けた相手に渡した、それを持つものの願いは何でも叶えると言う約束の証、「玄鉄令」の持ち主が突き止められ、殺される。「玄鉄令」は偶々居合わせた浮浪児、狗雑種(英訳すると「Son of a Bitch」)の手に入る。
一方、高名な剣の達人、石夫妻の息子が、雪山派という剣の門派に入門しながら、不祥事を起こして行方不明になっている。
謝は狗雑種に適当な願い事をさせてことを済まそうとするが叶わず、誤った武術の修練をさせて亡き者にしようと図る。
数年の修行の後、謝の思惑通り狗雑種は瀕死となるが一命を取り留める。そして目覚めると、何故か長楽幇という組織にいる上、頭目、石破天として扱われており、さらに、石破天は行方不明となっている石夫妻の息子、石中玉であったと言う事実が明らかになる。その証拠として、石中玉でしかあり得ない幾つかの傷跡まで体に残っているが、もちろん狗雑種にはわけがわからない。

謎解きの要素があり、伏線もちゃんとあり、いつものようにご都合主義的な主人公のレベルアップもある。薄めの文庫全三巻と、金庸の長編にしては小ぶりだが、なかなか実の詰まった作品で面白い。

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