金庸の「越女剣」。

金庸の小説の邦訳については、刊行が始まった時点で気になっていた。ジェット・リーの主演映画「スウォーズマン・女神伝説の章」(「笑傲江湖」の中盤を大胆に改変した珍作)や、「カンフー・カルト・マスター」(「倚天屠龍記」の途中まで。やはり改変はかなりある)の原作と言うことは知っていたからだ。
しかし、そのうち忘れてしまい、実際に買い集めるようになったのは文庫化がスタートしてからだった。本は好きだがハードカヴァーは滅多に買わない。学生の頃は買っていたが、今は読むのが通勤の行き帰り中心なので、嵩張るし重いしでハードカヴァーだと一度読んだらそれっきりになりやすいのだ。文庫や新書なら持ち歩きやすい。例えば金庸作品のみならず「水滸伝」や「指輪物語」など複数巻にまたがる作品の場合、通勤の往路で今読んでいる巻を読み終えてしまいそうだなと思うと、次の巻まで鞄に放り込んで出かける。ハードカヴァーだったら2冊も持ち歩くのは一寸辛いが、文庫だから気軽に持ち出せ切れ間無く読み続けられ、結果、一度と言わず二度、三度と読み返すことになっている。

しかし、文庫化のスピードの遅さに耐え切れず、「雪山飛狐」と「越女剣」は、ハードカヴァーを買ってしまった。どちらも一冊で完結しているから、ハードカヴァーでも良いかなと思ったのだ。



「越女剣」は、金庸作品で唯一、中篇1作と短編2作をまとめた本だ。
塞外の地でのはかない男女の情を描いた、梁羽生作品を想起させる中篇「白馬は西風に嘶く」はなかなか読み応えがある。手にしたものは天下無敵となる一対の刀、という、「倚天屠龍記」を思わせるお宝の争奪戦を描いた「鴛鴦刀」も短いながら清々しい読後感で満足できる。
「越女剣」は、作者自身があまり評価していないようだが、確かに金庸らしさは余り感じられない。先の2作は1961年、「越女剣」は1970年、最後の長編「鹿鼎記」の連載開始より後に書かれた(完結は当然「鹿鼎記」の方が後)ものであるから、他の長編と「鹿鼎記」の作風が異なっているように、異なる雰囲気を備えているのだろう。また、珍しく古い時代を舞台としたことも、影響しているのかもしれない。
それにしても、やはりハードカヴァーはかさばるし、鞄が重くなる。わかっていたことだが。

コメント

人気の投稿