水滸伝関連のメモ。

水滸伝について、映画を観たついでに。

ショウ・ブラザーズの「水滸伝」(張徹監督、1972年)には、盧俊義役で丹波哲郎、史文恭役で黒澤年男が出演している。そう言えばこの二人、大昔の日本テレビのドラマ版「水滸伝」にも出演していたなと、ふと思い出した。

丹波哲郎は呼延灼、黒澤年男は戴宗だった。呼延灼は高俅に煙たがられ北方警備に飛ばされている将軍で、林冲の元上官という設定だったような気がする。しかも呼延灼の息子が勅命で梁山泊を攻撃し、討ち死にするというエピソードもあったはずだ。
一方、戴宗は原作のように牢役人だったりせず、最初から梁山泊の一員で、神行法を生かして情報収集や伝令で活躍する設定だったか。
リアルタイムで見た後30年ほど経て、一度全編を見返す機会があったが、その時はまだVHSに録画していたので後にデッキもテープも処分してそれっきり。かなり覚えてはいるが、忘れていることも結構あるので調べてみると、ちゃんとWikipediaにページが設けられている。



このドラマは1973年、日本テレビの開局20周年記念番組として制作、放映された。横山光輝の漫画版が原案となっており、すでに漫画版で改変があった上に、ドラマはさらに改変されている。
と言っても、当時の自分は小学生で、こんな予備知識は無かった。また、並行して原作の児童向け翻訳を読み、どうもお話が違うと思った記憶はあるが、あまり深く疑問に感じてはいなかった。

悪役は高俅で、他の奸臣はいたかどうか定かでない。近衛軍の大将になった高俅が師範である林冲の奥さんに横恋慕、林冲を罠に嵌めて流罪に。高俅の仕掛けた香の煙で眠ってしまう林冲の奥さん、忍び寄る高俅、と言う場面は小学3年生にもやばいことが何となく分かった。それはさておき、その後林冲が行く先々で魯智深や史進と出会い仲間を増やすという流れで序盤は進み、生辰綱強奪のくだりなどはさんで、梁山泊に好漢が集って行く。
高俅は最終的に皇帝になろうという壮大な野望を秘めており、対する梁山泊の好漢達は、奸臣高俅を倒して民衆のため国を改革しようという、反体制ゲリラ的な存在になっている。
そして、途中までは晁蓋がいて、宋江、盧俊義も出てはくるのだが、梁山泊の実質的なリーダーは林冲と看做されており、というか、誰よりも高俅が林冲ばかりを目の仇にしており、林冲対高俅という構図が基調になっている。そのために登場人物も、エピソードも省略、改変されている。扈三娘が高俅への貢物として登場し、逃げ出して林冲のストーカーになったり、その扈三娘に楊志が惚れるのだが諦め、二竜山に引きこもったり。関勝は若いころ、後の林冲の妻を巡って恋のライバルだったとか。
このように原形をとどめていない部分が多いと、真っ当な翻訳をしっかりと読んだ人には、出鱈目とさえ映るだろう。特にクライマックスは意表をつく展開で、衝撃を受けるかも知れない。皇帝を亡き者にしようとする高俅を阻止し、最後は荒野の様な場所で林冲と高俅の一騎打ちなのだから。
テーマとしても、原作を貫く忠義や無常観は無く、却って如何にも70年代らしい若干左翼的なアジテーションの風味が漂う。かといって宋朝そのものを打倒するほどの大胆な脚色は無いため中途半端な感が否めない。面白いとは思うのだが、今となってはまともな水滸伝の映像化作品として認められるものではないように思える。

しかし、虎の毛皮を身にまとったハナ肇(といってももうわからない人が多いのだろうか?)の珍妙な武松は子ども心にも奇怪に映ったが、他のキャラクターは概ね魅力的だった。
中村敦夫の林冲は原作の人物像とは似て非なるものだがストイックなヒーローとして恰好良かったし、対する高俅、佐藤慶の憎憎しさは際立っていた。TV,、映画を問わず、自分にとって最高の悪役は、この高俅だと思う。ちょっとぽっちゃりしていたがいなせなあおい輝彦の史進。原作よりかなりワイルドな佐藤允の楊志。田村高広の柴進には気品があふれ、軍師と言う雰囲気は皆無だったものの、内田良平演ずる朱武は如何にも山賊と思わせる磊落な佇まい。そして何より、花栄役、原田大二郎の精悍な青年将校ぶりと、大前均演ずる鉄牛(李逵)の、恐らく中国香港でさえこれほどぴったりなキャスティングはありえないと思うほどのはまりっぷりは見事なものだった。

何十年経って不惑を過ぎても、水滸伝を読み返し、カンフー映画を楽しみ、金庸の武侠小説を読みふける自分の趣味嗜好の原点は、このドラマと、相前後して読んだ翻訳の水滸伝と、同じ73年、すでに亡くなっていながら「燃えよドラゴン」で日本中を熱狂させたブルース・リーであったことは間違いない(と言いながら、3万円出してDVDボックス買おうとまでは思えないけれど)。

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