コンドラシンのマーラー第6番。

ムラヴィンスキーでもバーンスタインでもなくコンドラシンからショスタコーヴィチに入門したので、コンドラシンはショスタコーヴィチの音楽における先生の様なものだ。しかしショスタコーヴィチ以外だと、30年ほど前の高校時代に友人が高く評価していたコンセルトヘボウ管とのシェヘラザードのCDを持っているぐらい。メロディヤレーベルからマーラー選集が出ているのは知っているが、旧ソヴィエトのキンキンした耳がやられそうな音ではなかろうかと想像される上に、意外と安くならないので躊躇っている。
そんなところへ、ドイツのヘンスラーからライヴではあるが6番が発売されているのを見かけ、これは1981年、南西ドイツ放送響との録音だから音質的には安心して聴けるだろうと買ってみた。
ジャケット、と言ってよいのかわからないが、冊子の裏表紙にはフルトヴェングラーの顔など並んでいる。南西ドイツ放送の「Historical Recording」シリーズというのがあり、その中の1枚のようだ。フルトヴェングラーは十分に"歴史的"と感じるが、この80年代の録音が"歴史的"コレクションとして扱われているのを見ると、なんだかえらく歳をとってしまったような気になる。


第一楽章の冒頭、速い。速いが、このぐらいなら他にもあると感じる。が、アルマのテーマが出てきて、やっぱり速いかも、と思う。進むに連れ、かなり速いのではないかと思えてくる。第二楽章のスケルツォに至って、ますます速さが意識され、しっかりと付いて行っているオケの力量とともに、太鼓など明瞭な録音にも感心してしまう。第三楽章アンダンテは美しいので不満は無いが、聴衆を置き去りにするような徹底した、そして硬質なスピード感は、コンドラシンの、ではなく、ムラヴィンスキーのショスタコーヴィチの5番を思い出させる。
そして、終楽章は一転じわっと、テンポを落として始まる。それだけで、現代音楽のような、異質な響きが生まれる。が、それも束の間、また恐ろしいほどのテンポアップを経て、一気呵成に終結へと進んで行く。ハンマーは鳴ったっけ、どこだったっけと、うかうかしているうちに置き去りにされながら。

この速さが具体的にどんなものなのか。

バルビローリ:PO 21:18/16:01/13:57/32:44/84:00
クーベリック:BRSO 21:09/11:44/14:40/26:34/74:07
ショルティ:CSO 21:07/12:33/15:30/27:37/76:47
マゼール:VPO 23:41/12:49/16:06/30:01/82:37
コンドラシン:SWRSO 17:05/12:16/13:29/25:23/68:13
(バルビローリは第二楽章にアンダンテ。他は第三楽章)

遅そうなバルビローリとマゼール、速そうなクーベリックとショルティを並べて比べてみた。第一楽章は提示部を繰り返すかどうかで時間が変わり、この録音以外に、ここに挙げていないものでも17分台と言うのがあるから特異ではない。スケルツォも、クーベリックの方が速いぐらいでそれほどでもない。むしろ、第一楽章を除けばクーベリックの速さが目に付くが、押しなべて、全般的にコンドラシンは速いと言うことだろう。ライヴゆえのノリ、勢いと言うのもあるだろうが。

録音は、ライヴだから分離はさほどでもないが悪くない。ただし、想定以上の強奏だったのだろうか、ところどころ音圧レベルが高すぎて潰れているところはある。しかし、圧倒的な速さの前に、気にしている余裕が無い。この速さゆえどちらかと言えば珍品に近いと感じるが、コンドラシンのマーラーが、そこそこ良い録音で聞けることには確かに"歴史的"価値がある。

コメント

人気の投稿