ローレンス・ブロックの「死への祈り」。

タイトルからはどこかしら静謐な場面を想起させられるが、シリーズ中最も不安に満ちた、嫌な作品だ。といっても面白くないわけではない。冒頭、スカダーが想像する被害者の行動が淡々と叙述されていくあたりは、いつもと違ってちょっととっつきにくいのだが、事件が動き出すと、読むのを止められなくなる。シリーズ中でも屈指の面白さだと言っていい。嫌なのは、今作の犯人像だ。



敵は例によって異常者なのだが、これが手ごわい上に、運もいい。これまで様々な異常者、倒錯者、狂気染みた犯罪者を相手に、自殺を促したり、警察に引き渡したり、自ら手を下したり、何らかの形で片をつけてきたスカダーに、出来ることがあまり無い。
しかも、ところどころに犯人側の一人称視点が挿入され(これは賛否両論あるようだが)、犯人の思考や感情を読まされると、2001年、今から10年前に書かれた作品でありながら、いま現在の社会においても実在しておかしくないリアリティがあり、そのうち犯人の方が主人公であるかのような錯覚に陥りそうになる。
そして、現実はスカダー(そして警察組織も含めて)を追い越して、最早できることは限られてしまっている、ひとりの探偵がこの複雑で狂った社会に対して出来ることなどタカが知れている、とでも言わんばかりの結末。
続く、ということなのだろうが、次作「すべては死にゆく」はまだ文庫化されておらず、一作だけハードカヴァーで買うのも気が引けて悩ましい。

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