ローレンス・ブロックの「皆殺し」。

マット・スカダーシリーズ一気読み返しも、残り2冊。ちょっと振り返ってみる。

・初期三作:過失事故で人生が狂った元刑事がもぐりの私立探偵としてニュー・ヨークを闊歩する。そんなハードボイルド・ノヴェル群。スカダーは酒に浸かっているような生活だが、まだシリーズらしい深みは無い。ただし、導入部などさすがブロックと思わせるアイデアは光っている。
・「暗闇にひと突き」:続く傑作「八百万の死にざま」への、ジャンプ台のような作品。前3作とは何かが違う。飲む量とか。
・「八百万の死にざま」:最初の到達点。序盤での(あるいは今日までの?)最高傑作。ついに酒に殺されそうになり、殺人鬼にも狙われ。そこから立ち直る道を見つけるまでの物語。
・「聖なる酒場の挽歌」:過去を振り返ってのお話。閑話休題というか。
・「慈悲深い死」:一旦リセットして、続く三部作へのジャンプ台のような作品。
・倒錯三部作:シリーズが迎えた二度目のピーク。
・「死者との誓い」:アル中と言うトラブルを抱えた無免許の探偵が、異常な、あるいは猟奇的、倒錯的な犯罪と対峙すると言う構図は変らない。事件の「解決」とは一体何なのか、アメリカの司法制度の無力さも常に訴えられてきた。そしてここでは、「解決」とは誰のためのものなのかという疑問も提示される。誰も真実が解き明かされることを臨まないと言う、探偵の存在意義にまで関わる問題。果たしてこの作品でのスカダーは探偵なのか。
・「死者の長い列」:ユニークな設定で謎解きの面白さも期待させつつ、結末も一風変わった作品。
・「処刑宣告」:「劇場型犯罪」と言ってよいのだろうか。そうした事件に関わり、次々と真相を解明していくスカダー。ちょっと、何もかも上手く行き過ぎている感が否めない。



そして、「皆殺し」。友人である犯罪者ミック・バルーと彼の配下たちが、何者かに狙われ、殺されていく。スカダーもまた、バルーの側の人間として、狙われる。前作までどうにかこうにかうまくいき、綺麗にまとまってきたスカダーの世界に、鉄槌が叩き込まれる。甘くなりすぎたシリーズを、大きく揺り戻すかのように。
それにしても、厳しいストーリーだ。ただ、終わってみると、前作同様、都合が良すぎる感も残るのだが。

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