ローレンス・ブロックの「処刑宣告」。

「処刑宣告」と言うタイトルはかなりハードな雰囲気だが、起こる事件はセンセーショナルではあるものの荒っぽくはない。


ある新聞の名物コラムニストの主張がきっかけとなったのか、無罪となった殺人者が殺された。犯人は自ら人々の「意思(will=ウィル)」と名乗り、コラムニストに声明を送りつけ、ニューヨークはその話題一色になる。ウィルは社会に悪影響を与えている考えられる著名人の名を挙げて第二、第三と殺人を予告し、実際に標的となった者が殺され、ついにスカダーの知人でありたまに仕事をくれる弁護士が標的となって、事件はスカダーと接することになる。シリーズで常に投げかけられている、司法制度が報いを与えられない犯罪者に対していかにして報いを与えるべきか、という問いかけに対して、今回はスカダーではなく犯人の側が答えを提示している。
また一方で、AAの知人の女性から、公園で射殺された彼女の友人、名もないエイズ患者についても相談を受ける。この誰も見向きもしない殺人と、世間を賑わす殺人との対比が秀逸で、その間を行きかいながら、スカダーはいつものようにこつこつと真実に近づいていく。
エレインとの生活が安定し、スカダーは探偵の免許を取得し、TJは便利屋から正式なパートナーのポジションに近づいている。皆すっかり全うな人生を歩むようになって、常にシリーズに付き纏ってきた仄暗い寂寥感はすっかり薄れた。
相変わらずスカダーは禁酒には努めていて、まだけして全ての苦悩から解き放たれたわけではないが、やはりちょっと穏やかで明るい物語になってしまった感は否めない。このような感想は、訳者である田口俊樹氏のあとがきにも書かれているし、何より、終結部がほろりとさせられるいい話になっていて、それが読了感を支配してしまう。もちろん、これはこれで良いのだが。

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