ローレンス・ブロックの「死者の長い列」。

最高傑作と称される「死者との誓い」に続いてブロックが著した「死者の長い列」は、ちょっとおとぎ話のような、不思議な作品だ。筒井康隆の「富豪刑事」をちょっとだけ連想したが、深い意味は無い。


古代バビロニアから続いているとされる、「31人の会」というものがある。31人の男が会員となり、その内の30人が亡くなった時点で、ただ一人残ったものが、新たに30人を選び、集め、次の代(作中でスカダーは「章」という言い方をしている)の31人の会が発足し、また30人が亡くなった時点で次の30人を集めて、と繰り返していくというものだ。といっても秘密結社でもなんでもなく、思想信条趣味嗜好いっさい関係ない。やることも、年に一回集まって会食し、物故者の名前を読み上げて追悼するだけで、秘密めいたものはない。この連綿と続くイメージが、タイトルの「死者の長い列」だ(といってもこの言葉自体はミック・バルーが別の出来事に関して口にするのだが)。

しかし、会員はもちろん部外者には尚のこと存在理由がよく判らない会であるからか、会員は会のことをおおっぴらに話したりすることは無く、世間にも知られておらず、会のことは何となく会員たちだけの秘密になってしまっている。
そんな31人の会のあるメンバーが、あるとき、自分たちの代の会は、あまりにも死者が多すぎるのではないかと疑問を持った。そして、スカダーに調査を依頼した。彼らは概ね50歳代後半なのだが、すでに約半数が亡くなっていた。スカダーが調べると、明らかな事故死や病死もあったが、殺されたもの、事故や自殺とされていても偽装の可能性があるものが見つかった。
誰も存在を知らない会の会員が続けて殺されていくとして、犯人は誰か。

このような、ちょっとハードボイルド・ノヴェルらしからぬ設定が、まず面白い。謎解き重視のミステリー作品のようだ。といって、スカダーが推理を売り物にするホームズのような探偵に変身するわけではない。会員の中には著名人も何人かおり、会のことが表沙汰になると、メディアなどが面白おかしく書き立てるのは目に見えているから、警察に相談するわけにも行かず、スカダーはTJをパートナーに、いつものように動き回ってこつこつと真相を追及していく。

そして、片の付け方が、ちょっと変わっている。これまでにないパターンだ。警察に委ねるわけでもなく、自ら手を下すわけでもない。もちろん、これまでの作品と同様、現実のアメリカの司法制度では手に負えない犯罪や犯罪者をどう扱うべきか、という問題に対するブロックなりのアイデアのひとつであることには変わりは無いのだが。

発端から結末に至るまで、スカダー自身はいつも通り動き回っているのだが、異色作と言って良い様に思う。シリーズを続けて読んでいる者には、変化球的な楽しみが感じられるだろう。また、弁護士のドルー・キャプランが現れず別の弁護士が登場したり、コングズはハーバード大学に進学してニューヨークを去っていたりと、少し、スカダーを取り巻く人間関係に変化がある。エレインとの関係も含め、そのあたりを追いかける楽しみももちろんある。

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