ローレンス・ブロックの「死者との誓い」。

"倒錯三部作"を経て、「死者との誓い」で、またスカダーは変化する。
文庫巻末の解説で、霜月蒼氏はシリーズの最高傑作とし、さらには、1990年代に書かれた私立探偵小説の中でも最高傑作と言い切っている。


殺人事件があった。当然のことながら、
・被害者
・容疑者(逮捕されている)
がいる。容疑者の弟から、兄が犯人とは思えないと言う話を聴き、そうとは思えず、万一それで何かわかっても何も変わるまいと思いつつ、スカダーは調べはじめる。
やがて被害者には不審な点が見つかり、それが殺された理由につながるのではないかと思える。そうなると、その点に関係の無い、捕まっている容疑者は、無実である可能性が高い。
しかし、真実を見つけても、さらしても、何をしても、この件では大して意味が無い。真実を追究し、許すべきでないものがいれば、方法はともかく、それに何らかの報いを与える、というのが、いつものスカダーだ。しかし、この事件では、なんと、誰もそれを望んでいないからだ。
こうなると、この作品はハードボイルド・ノヴェルなのか、探偵小説なのかすらあやしい。少なくとも推理小説ではない。主人公は探偵だが、描かれているのは彼を取り巻く人々の生と死で、それを見つめ揺らぎ続けるスカダーの姿で、しかもその死の中で最も重要なものは、犯罪とは無縁ですらある。依頼を受けての調査の場面を覆い隠したら、この作品は純文学と言っても差し支えないものになるだろう。

コメント

人気の投稿