ローレンス・ブロックの「聖なる酒場の挽歌」。

淡々と読み進んでいる、マット・スカダーもの。6作目の「聖なる酒場の挽歌」は、シリーズ中のひとつの句読点のような作品と言えるだろう。



前作「八百万の死にざま」の最後で、スカダーはアル中である自分をさらけ出し、断酒へと完全に踏み出した。
そしてこの作品では、その後の、酒を断ったスカダーが、まだ呑んでいた昔を回想しながら過去の事件を語っている。
二見文庫では、これが最初に刊行されている。それは早川から「暗闇にひと突き」と「八百万の死にざま」が出た後のことで、その後に二見からは一作目から三作目が刊行されるという、いびつな順番になっていたようだ。ただ、この作品自体は、次の作品がまだ書かれていない、最新作としていいタイミングで刊行されたようだ。
したがって、この文庫のあとがきで訳者の田口俊樹氏は、ブロック本人がもうこのシリーズは書かないだろうと言っていたとの情報を明かし、シリーズは終わるのではないかと感じ、そう記している。酒を断ってしまえば、アル中の探偵と言うアイデンティティが失われ、キャラクターとしては終わってしまうのではないか、という見方もあったようだ。
作品そのものも、アル中であることを認めた前作から続けて読むと、酒を断って後に過去を振り返った、まるでエピローグのような雰囲気だ。しかもスカダー自身は呑まなくなった以外は変わりは無いと語っているものの、なんとなく現役ではなくなっているかのような、枯れた感じが行間に滲み出ている。最早スカダーに関しては、過去を振り返るしかない、すなわち、これからはスカダーは今までのような活躍はしない、つまり、今後それが小説に描かれることは無いと暗示されているような。
それはさておき、単体の作品としても、スカダーと酒場の仲間たちとの群像劇的なつくりで、ほぼ酒場を舞台に、友情や裏切りが描かれている。ジムビームを満たしたショットグラスでもあれば手を出さずにいられなくなるような、ほろ苦さと哀感が漂う、愛すべき佳作だ。もちろんそれは、ここまでの作品群で、スカダーを、彼の境遇を知っている人間が読んでいるからなのだろうが。

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