小林旭の無国籍映画に関するメモ(6)。

波濤を越える渡り鳥(1961.1.3)


舞台:タイ、アユタヤ
滝伸次の素性・目的:素性は相変わらず不明。考古学者(?)南条から預かった地図を持っていた若者が賊に襲われていた場面に偶然出くわし助けたところ、賊が生き別れた兄の形見らしき物を落として逃げたことから、兄の生死と地図の謎を探るため香港、そしてタイへ。
錠の役どころ:悪の黒幕リイの配下、「ラオスの虎」。孤児だったところを拾われたリイには恩義がある。実は滝の実兄。
ルリ子の役どころ:助けた若者の妹であり、南条の婚約者。
悪の黒幕:香港とバンコクでキャバレーを経営する実業家リイ・シャタック(金子信雄)。
黒幕の目的:アユタヤの遺跡地下で南条が発見した旧日本軍の隠匿物資を入手すべく、南条を拉致するとともに、遺跡が含まれる鉱山の地所を奪い取ろうとしている。
寸評:
爆発的な人気を得たシリーズが、満を持して海外ロケを敢行した作品。タイでも人気だったそうで熱狂的に迎えられたらしい。
作中では、第二次大戦中、滝は家族とともにビルマにいたと言う、今まで欠片も触れられていなかった過去が提示される。両親と兄と4人で、戦況の悪化からタイへと移動する途中、敵機の空襲を受け、両親は機銃掃射を浴び、兄は崖から落ちた。
そして現代へと場面は移り、主題歌を経て、藤村有弘演ずる東南アジア系の怪しい連中が若者を襲う場面へ。
悪党が鉱山の権利を狙っているあたりは場所が違えどいつもどおりだが、錠が演じる「ラオスの虎」は、誰もがそう思うであろう通り生き別れた兄で、この設定がいつもとは一味違った雰囲気を生み出している。また、旭が最後に兄と揃いのペンダントのひとつをルリ子に贈って去るのだが、女性にこうした思いを伝えるような真似をするのも他に例がなく特異と言えよう。さらに、近藤宏が学者の南条で、ルリ子の婚約者というのも珍しい。なお、白木マリはタイの娘役で、民族衣装を着ての踊りを披露している。
物語中で実の兄であることが判明した錠は、何処へともなく去って行き、この作品を最後に渡り鳥シリーズからも去ることになる。後からシリーズ全体を眺めると、幕引きとして結構きれいに仕上がっているように感じる。昔から通説としては2月の赤木圭一郎の事故死によって錠が主役に引き上げられたとされていたらしいが、小林信彦さんの著作や宍戸錠の小説「シシド」では、それ以前に錠を主役級に上げる計画はあり、偶々赤木の死がタイミング的に重なっただけだそうだから、錠の独り立ちを踏まえて意図的に演出したのだろうかと思えなくもない。

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