ウインズロウの力。

ドン・ウインズロウの「ストリート・キッズ」を書店で手に取ったのは、もう十数年前のことだ。何か電流が走ったと言うか、これは絶対に面白いと言う確信があった。いや、手に取る以前に、こちらの嗅覚を刺激する何かがあったのだ。
探偵とスパイを兼ねたようなエージェントとして、主人公のニールが成長していく物語は以後数冊に及んだ。救いのない世界を、ニールの軽口が少しだけお気楽にしてくれた。

ウインズロウには「ニールもの」以外にも作品があって、「カリフォルニアの炎」とか、面白いのは確かだけれど、ニールが帯びている軽妙さであったり、ニールと「父さん」(養父と言うか、エージェントとしての父と言うか、とにかく、古い家の地下に隠れている妖精のようなおっさん)とが醸し出すほのかなあたたかみとかがなく、どれもどこか物足りなかったのは事実だ。

そして最も新しい文庫が「犬の力」、上下二巻の大作。



ニールはいない。麻薬カルテルと捜査員との戦争が、時折数年の時間を飛び越えつつ、延々と続く。ごつごつとして血なまぐさく泥臭くもある。軽妙なウイットとかそういうものとは縁遠い。だが、ここまで突き抜けた重さ、固さには、類まれな力が備わっていて、ニールもの以外では最高の出来ではなかろうかと思える。

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