見仏記を久々に読む。

最近若い女性を中心に仏像が流行っていると言う。阿修羅像が好きな人を「アシュラー」と呼ぶとか、わけのわからないことになっているようだ(半分ぐらいはメディアサイドの上げ底だろうが)。

それでかどうかはわからないが、いとうせいこう&みうらじゅんによる「見仏記」シリーズの新刊「ゴールデンガイド編」が、この春刊行されていた。最近まで気がついていなかったので、買い逃していた前作「親孝行編」(2002年刊)と併せて注文した。シリーズ初期のものはすでに文庫しかなくなっていたが、親孝行編はハードカヴァーがまだ残っていたので、どうにか全巻ハードカヴァーでそろえることができた。



届くまでの間に、ちゃんと読了していなかった前々作「海外編」(1998年刊)を頭から読み返した。家内が刊行当時に買ったもので、頁の外周が茶色くなってしまっている。
その前の2冊で国内をあらかた回った二人が、韓国、タイ、中国、インドを巡る紀行だ。韓国ではお約束どおり、「秀吉の軍勢に焼かれた」ので古い仏像が残っていないなどと言うたわごとを浴びせられてしゅんとなったりしつつ、そのあとすぐ作り直していれば十分古い仏像が残っているはずだ、おかしいぞと気がついたりしながら、強大な中国と地続きであったが故の朝鮮半島の苦労を偲んだりする。異質なものと対峙して、徒に反発するでもなく、思慮無く受容するでもなく、違和感を覚えつつ少し困って、やがてひとつの解釈を見出す。この紀行はそうしたことの連続なのだが、そこにはいつも、いとうせいこうという人の、優しい眼差しが感じられる。
そしてみうらじゅんが、この人は基本的にはトリックスター的な存在なのだが、過酷な旅程でくじけそうになるいとうせいこうを優しく励まし続けるのである。婦女子の皆さんはホモセクシャル的なイメージを持つのだろうが、男同士とはそういうものだと、男性なら自然に理解できるだろう。「指輪物語」におけるフロドとサム、あるいはレゴラスとギムリとか(ちょっとちがうか)。とにかく仏像にさして興味のない私が読んでも面白いわけで、これは作者のお二人には本意ではないかもしれないが、このシリーズは「仏像を訪ねる紀行」というよりは、「仏像を媒介としたおかしなおっさん二人の道中もの」としてすばらしくよくできていると言うことなのではないだろうか。

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